もしかしたら猟場の開拓が好きなのかもしれない

最終更新日

新しい猟場の開拓を始めた。

まだ北海道に来て2シーズン目で、「ここがホームだ」と言える場所はない。1シーズン目に通った場所ならどうにか「なんとなく分かってる」という程度には開拓してきたが、正直その1ヶ所だけだった。慣れた場所が1ヶ所しかないと、なにかあったとき——たとえば先客がいるとか、通行止めになったりとか、林業の作業が入ったりとか——に行き場がなくなる。

だから慣れた猟場はせめて数ヶ所はないと不安だ。そこで今年も去年に引き続き、猟場の開拓に力を入れることにしていた。

ヒグマの糞をきっかけに見つけた場所

地形図(実際の猟場の地形図ではありません)

これまでも猟場の開拓については記事で書いたことがある。

新しい猟場を捜す! 一日の流れを書いてみます
猟場探し:新しい猟場を捜しに行ったので、そのプロセスをまとめてみる

猟場探しについては特別な技術があるわけではなく、なにはなくともコツコツやるしかないと思っている。ハンターマップを眺め、地形図を睨み、林道を流し、山を歩く。実際に山を歩いていても「ここはダメだな〜」と思う場所もあり、1日走り回って歩き回っても、「あんまり良くなかったなぁ」と終わることもある。

今回は地形図から見つけたと言うよりも、偶然ドライブしていて見つけた山域だった。

ヒグマとおぼしき糞

路上でヒグマの糞を複数見つけ、気になって周囲の地形図を見ていた。どういう場所にヒグマがいるのか知りたかった。するとシカ撃ちにも良さそうな場所に思えてきたので、「よし! 実際に歩いてみようか」と思い立った。

 

開けた湿地

ヒグマの足跡

そこは比較的開けた谷間が広がっていた。細くチョロチョロとした沢が2本、うねる蛇のように流れており、それ以外の場所は笹藪が濃い。

「ここもやっぱり笹藪が濃いな〜」

と嘆きつつも、その沢を辿れば歩けるので、しばらく谷の奥へと向かって歩いてみた。新しいシカの足跡はあるものの、その姿は見えない。

そのうちヒグマの足跡も発見(上の写真)し、やや気持ちが弱気になったところで笹藪が本格的に濃くなり、谷の奥へは行けなくなった。

 

谷がダメなら尾根はどうだ?

ヒグマの足跡を見つけて、こういう痕跡がすべてヒグマに思えてくる。が、たぶんこれは鹿の角の研ぎ跡。

谷がそうそうに行き止まりになってしまったので、気持ちを入れ替えてその谷を見下ろす尾根に上がりトラバースしながら、奥を目指すことにした。幸い、笹藪が薄い場所があったので、それを辿っていく。

すると——さきほどぼくが歩いていた谷間から笹をかき分ける音が聞こえてきた。

「え? あそこは数分前までぼくが歩いていたっていうのに」

谷が見渡せる場所に出て、下を見ると——

画面中央にこちらを向いたオスジカ。ちょうど目が隠れているが、口を開けて鳴いているのが見える。

 

最近は一眼レフを持ち歩いているので、こういう撮影が捗る。

さて、このオスジカ。いかにも怒っている。これは想像なのだが、おそらくわたしが谷間を歩いていたときの音を聞きつけて、よそのオスジカが来たのだと思ったのだろう。つまり通常ならシカ笛でおびき寄せるところを、自分の足跡で呼び寄せた格好になっているのだと思う。

キョロキョロし、時々鼻をあげ、別のオスジカを探しているように見える。

そしてグイグイと進む。どんどんと距離を詰め、ほとんど真下にやってきた。まだ猟場探しの真っ最中。しかも歩き始めて1時間も経っていない。

「これは見送ろう」

と、しばらく眺めていた。するとこのシカ、偶然だろうが、ぼくのいる尾根に向かって一直線に登ってきた。ちょうどぼくがこのオスジカの通りたいけもの道に立っていたということなのだろう。あまりに近く前やってきて鼻息まで聞こえてきたし、オスジカ特有の匂いまで漂っている。

どういうわけか、ここで気持ちが変わった。

「獲ろう。獲りたい」

そう思った。鉄砲を用意し、弾を装填するとさすがに目の前(たぶん5mくらい)のところにいたシカはぼくに気が付いて尾根を駆け下りた。そしてこちらを確認するように見上げた。その目がスコープ越しに合う。

引き金を引いた。胸のあたりの毛が散って、シカは深い笹藪をかき分けて走った。あの当たり方ならそれほど走ることはないでしょ、と高をくくって、こちらも静かに尾根を降りる。慌てて追うとアドレナリンが出て、余計に走ってしまうので、ひと呼吸置くくらいがちょうどいい。煙草を吸う人なら「一服してから追う」くらいがいいのもしれない。たばこを吸っていたこともあるので、その時間が羨ましく思わないでもない。

 

見つけた……え?

こちらは上から見て、シカが走った方向はバッチリ把握していた。笹藪があるおかげで、音と揺れ具合を見ていればどこにいるかわかる。ある場所を最後に笹の揺れはなくなっていたので、そこに倒れているだろうと踏んでいた。

自信があったので、血痕を追うことはせず、直接その場所に向かう。笹をかき分けて覗き込むとやはりシカの尻が見えた。

「よかった」

ちゃんと仕留められたとき、いつも口癖のように呟いてしまう。このときの「よかった」という気持ちは毎回変わらない。

ところが突然シカが起き上がり、斜面を登りはじめたのだ。多量の血痕が見えたので、致命傷なのは間違いないのだが、当たり所が悪かったようで、即倒するには至らない。そしてこちらは藪の中にいるから鉄砲が役に立たない。

オスジカが斜面を登ってしまったので、こちらも追う。止め矢を撃たなくてはならない。

 

やや薄い笹藪をくぐるようにして抜けて驚いた。目の前3mくらいの所にオスジカが立っていたのだ。まさに仁王立ちだった。すぐそばにいるぼくに気が付いていないことはないだろうが、恐らく瀕死の状態で朦朧としているのだろう。微動だにしない。やや頭をさげているし、こちらに尻を向けている状態なので、撃つことができない。側面が見える場所に移動しようとすると、シカはさらに谷を下りた。転がり落ちたのではなく、駆け下りた。そして向かいの小尾根に登りはじめた。

今しかない。

急いで弾を込め、止め矢を撃つ。尾根を途中まで登っていたシカはそのまま落ちた。

 

走られた原因

こういう時、ハンターは「獲物が矢に強い」というような表現をする。「撃っても倒れない矢に強いデカオスだったんだよ」ってな具合に話す。

個体差はあるのだろうが、今回は当たり所が悪かったようだ。

というのも、1発目の弾は前足のやや後ろに入っていた、しかし、弾は斜めに入り、腹へと抜けていた。つまり見かけ上はバイタルにばっちり入っているのだが、身体を通過する弾道を想像してもらえば分かるように、実際にバイタルと言われる心臓まわりの臓器があるエリアはあまり通過せず、実際に腹を撃ったような状態だったと言える。

斜めに入るときは、それも見越した着弾点を見つけないといけない。知識としては分かっているし、それがちゃんとできるときもあるのだが、今回はその判断ができなかった。狙ったところには当たっているので、そもそも狙う場所が悪かったという、自分のミスだった。そのせいで無駄に苦しめたことが申し訳ない。

 

回収後にさらに散策

獲物を回収後、さらに猟場の探索を続けることにした。いかんせん、山に入ってすぐ獲れてしまったので、猟場の開拓というほどのことができていない。でもそのぶん、普段よりは車の近くで獲れたので、回収で楽はさせてもらえた。

さて、猟場の開拓をする上で、動物の動きが大きなヒントになることが多い。

ぼくはさっき撃ったオスジカが逃げようとしたルートが気になっていた。シカは逃げるときも割と律儀にけもの道を辿る(と思っている)。だから、このオスジカが逃げようとしたルートを辿ってみることにした。

そうやって歩き始めて数分。笹藪を抜けると、そこから先は下草の少ない開けた樹林が広がっていた。

キツネがこちらを見ていた。

縦横無尽にシカの足跡が続いていた。尾根から尾根へと歩き続けることができた。地味なことのようだが、笹藪の濃いこの地域の山において、このような自由度の高いエリアは貴重だ。少なくともぼくはまだこういう場所をいくつも知らない。

オスジカがもたらした成果は肉だけではなかったようだ。

そして1日を追えたときの充実感もよかった。ぼくはこの猟場の開拓というのが好きなのかもしれない。表面的な地形の理解はもちろんだが、その後の季節ごとの変化、動物の動き、そういうものを観察しながら同じ場所に通うのが楽しい。

良い場所を見つけられたようだ。


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。2022年からはアイヌ犬のイチを連れて一銃一狗に挑戦します。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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