単独猟日記3:鳴かれた鹿をダッシュで追いながら思うこと

最終更新日

単独猟3日目。また同じ山にやってきた。今回のテーマは最初から決めていた「逃げられたシカをダッシュで追ってみる」だ。

装備は安定

毎回猟に出る度に装備に関するストレスや過不足は解消してきている。些細なことが多いが、小さなストレスも丸1日歩けば大きなストレスになってくるので、改善の喜びは大きい。

改善する内容を忘れないように、猟の最中に気付いたことは全部メモをしている。たとえば例を挙げると

  • 双眼鏡のストラップが長い
  • スマホは自動で画面オフにする (付けっぱなしになっていて、バッテリーを消耗していたから)
  • 水を減らす

など。そうやって、気付いたことを改善していって3回目。装備におけるストレスはずいぶん軽減した。

 

単独忍び猟とは忍ぶこと

“単独忍び猟” という言葉をこれまで安易に捉えていた気がする。「単独&犬なし&車なしでやる猟は忍び猟である」くらいに思っていた。

でも3度目になって、“忍ぶ”  という言葉の重さを理解した気がする。ちゃんと忍べば、思った以上にシカに近付くことができる。あわよくば棒立ちのシカに出会うこともできる。例え逃げられるにしても、十分に近付いてから逃げられれば撃てるチャンスも増えるだろう。

獣の緊張感を高めないように、慎重に慎重に忍ぶことが本当に大切だと感じている。

そのために、1歩1歩、どこに足を降ろすか考え、枝を踏まないように、石を転がさないように歩いている。そのため、歩くペースがガクンと落ちた。

その証拠がこちら(GPSでとった歩いたルートの集計だ)。

<単独猟1日目>

<単独猟2日目>

<単独猟3日目>

 

すべて同じ山を歩いている。ルートは微妙に違うが、大部分は似ている。平均速度を見れば分かるように、初日は1.0km/hだったのが、0.9km/hになり、今回は0.3km/hと、グッとペースが落ちた。

歩くペースが遅いことが正解なのかは分からない。慣れた人ならばもっとペースを上げつつ、忍ぶこともできる気がする。そうすることで、より広範囲を探ることもできるだろう。わたしはまだそういう技術がないので、ペースを下げるしかなかった。しかし、こういう努力は「獲物との遭遇」という形で報われている。

 

逃げるシカをダッシュで追う

ハイキングハンティング.txtというブログを書いているリロさんに、いつもtwitterでアドバイスをもらっているが、最近こんな記事を書いてくれている。

犬無し単独忍び猟について その1

まさにわたしが読みたい記事で、本当に参考になる。ぜひ単独猟をやろうとしている初心者は全文読んでほしい。中でも、わたしが今回挑戦したのはこちら。

『近場でハッキリ姿を見られて走られた時』について
短く『ギャ!』っというような濁った声が混じるような印象があります。

この場合、足場が良ければダッシュです。
シカは間違いなくダッシュで逃げていきます。追いかけましょう。
走る姿が見えた方向に、可能な限り早く声の方向に走り
視界の開けているところに出たら装填していつでも撃てるようにします。

射程内で走って逃げるシカが撃てるかもしれません。

まさにこういう機会は頻繁に起こる。これまでシカに逃げられたか……。

そういうシカはまさに全力で逃げていく。緊張感が高まっているので、そのあとゆっくり忍び寄ろうにもまったく近付かせてくれない。つまり、「見られて(あるいは音を聞かれて)逃げられたシカは諦める」というのが、わたしだった。

しかしリロさんは足場が避ければ追うという。

たしかにシカは全力で逃げるといっても、いつまでも走り続けるわけじゃない。ある程度走れば立ち止まりこちらを見る。「大丈夫かな?逃げ切れたかな?」と確認しているのだろう。その立ち止まったシカを狙うことができれば十分に発砲のチャンスはある。

あるいは、逃げるシカの足は速いのだけど、場合によってはかなりきつい斜面を駆け上がることがある。そうすると思いのほか遅い。そういうシカを見たことがある。あれならば、動いているとは言え、当てることも可能かもしれない。

とにかく「逃げたシカを諦めない」。それが今日のテーマだった。

 

運は感で引き寄せる

今回、出会った鹿は4頭。すべてメスで、どれも見られた瞬間にピャー!と鳴かれて逃げられた。

つまり「ダッシュ」のチャンスだ。

今回、ちょっと無理してでもダッシュした。足場が悪い時は危ないので走るべきじゃないが、今回はいけると判断した。山の中を全力で走るのは楽じゃない。木が生え、枝が伸び、岩が転がり、崖がある。転べば銃を痛めるかもしれないし、そもそも身体を痛めるかもしれない。

「でも走らないと!」

——と変な使命感を持って、全力で走った。

逃げるシカも文字通り死にものぐるいだ。こちらは追う立場だが、向こうは逃げる立場。真剣さが違う。1度目のシカは人間には崖にしか見えない斜面を駆け下りていった。そのまま立ち止まることなく尾根を越え、姿を消した。銃を構えることもできなかった。

2度目、3度目、4度目も同じ。逃げるシカは偶然にも岩陰、藪の中、尾根の影に隠れてしまい、ダッシュで追いかけても発砲のチャンスには至ることができなかった。

4度もチャンスがあり、4度とも “偶然” シカは姿を見せずに逃げ延びた。

そうこうしているうちに、山中で発砲可能時間の終了を迎えた。車まで10分ほどの歩きをとぼとぼと歩きながら、 “偶然” 逃げ切ったシカのことを思い返していた。

「うまい人ならどうしたんだろう?」

それを考えた。「偶然逃げられた」と言っていては成長がない。もちろん運の要素は付きまとうだろうけど、うまいひとは明らかにわたしより効率よく獲るわけで、運では説明が付かない。

自分なりに思うのはシカの逃げるルートを当てる感、シカが立ち止まる場所を見極める感、そのシカを見渡せる場所を見定める感……そういう “感” が強いのかな、と。

たとえば今回、4回のうち1回はシカがいると分かっていて、近寄って逃げられている。今思えば、いると分かっているなら、逃げるコースも考えて忍び寄るべきだった。逃げても撃つチャンスがある形で忍び寄ればいいのに、一直線にその場所に向かってしまった。これでは雑すぎる……。

シカとの出会い、出会った鹿の動き、一見すると、猟には運が付きまとうけど、経験者はきっと感でその運を引き寄せてるんだろうな。回数を重ねる以外に感を身につけることもできないだろうし、とにかく今は何回でも出猟したいと思う。

幸い、猟場の下見を何回もしてきたので、「シカと遭遇する」ことに関しては、ずいぶん感を磨かせてもらったと思う。もう1歩踏み込んで、出会った鹿をうまく処理できるようになりたい。

 

山中ダッシュで大切なこと

シカに逃げられて、ダッシュするとき、とにかく大事なことは「安全の確保」。それができないならやるべきではない。崖を滑り落ちれば死ぬ可能性もある。

次に大切なことは「荷物を繋いでおくこと」だ。走ったときにGPSが落ちて紛失……とか、携帯を落として紛失……とか、しゃれにならない。ポーチに入れてあるものはポーチをしっかり閉じる。飛び出してしまう可能性があるものは、必ずストラップなどで身体に繋いでおく。また、刃物は抜け落ちれば紛失どころかケガをする可能性もある。必ず飛び出さない工夫をしておく。

また鉄砲は手に持って走った方がいい気がする。肩に背負っていると、枝をくぐり抜けたときに、銃口が枝に引っかかり転ぶ可能性がある。背中側に転ぶことになり、鉄砲を背中でつぶしてしまう可能性がある。スコープのことも考えるとぜひ避けたい。わたしは手に持って走った。それが1番だと思う。

 

猟のデータ

遭遇:メスジカ4頭
発砲:0
猟果:0
歩行距離:3.5km
行動時間:10時間42分(発砲可能時間を越えて歩いていたが、発砲できない時間は銃カバーに入れて歩いた)
平均速度:0.3km/h


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。2022年からはアイヌ犬のイチを連れて一銃一狗に挑戦します。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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