獲れるときは呆気なく
獲物が獲れない日はどうやっても獲れない。
「あのときどうすれば獲れたんだろう?」
「やっぱり未熟だから獲れないのかな?」
そんなことばかりを考えてしまうのだけど、逆に獲れるときはあまりに呆気なく、当たり前のように獲れてしまうことがある。
今日はそういう日。
林道をテクテク歩く
秋の紅葉が迫っている。でもそのすぐ後ろには白く舞う雪が追ってくる。まだ北海道の冬は2度目だから分からないのだけど、関東で見てきたような真っ赤な紅葉は多くない。森の中でポツポツとある程度。黄色ならちょこちょこある。
ぼくがいく猟場は林道を歩く時間が長い。延々と山の中にいると言うより、林道をテクテク歩きながら、山に入れるところで寄り道をするように山に入る。なにしろ笹藪が濃いので、縦横無尽に山を歩くことができないから、こうやって「歩けるところをつまみ食い」するスタイルになる。
林道を歩くときはどうせ撃つこともできないし、獲物がどうこうよりも物思いに耽っていることが多い。
「もし笹に意識があったなら、これだけたくさんの笹がある中で、自分というものをどう考えるんだろう? やっぱり個性を出したいと思う笹もいれば、目立たずにひっそりと過ごしたい笹もいるのだろうか」
そんなことを思ったり、思わなかったり。
オンタに逃げられてからの急展開
2ヶ所目に山に入った場所でのことだった。
新しい足跡を見つけたので、それをしばらく追跡しているとやはり足跡の持ち主に追いついた。が、こちらが気が付くよりも早く飛んでしまった。1本角のオンタだった。
「せっかくだからもっと追おう」
逃げたシカはどこまでも遠くまで逃げるというより、安全圏(だと当人が思ったところ)で黙って待っていることが多いようだ。だからソッと追跡すると、射程圏内にまた入れたりする。
それを期待して足跡の追跡を続けていたところ——
「フィィヨーーーー」
とオスジカの鳴き声が近くから聞こえた。逃げたシカとは逆方向から聞こえる。さっきのシカが静かに逃げたから、別のオスジカは侵入者であるぼくのことに気が付かず、すぐ近くで鳴いてしまったようだ。
開けた森、哮るオスジカ
ここは開けた針葉樹林帯。そして鳴いたオスジカはかなり近いへたすりゃもうすぐ見えるかも、という場所。
すかさずこちら鳴き返す。
「フィーヨーーーー」
普段なら鳴き返したら黙って待ち伏せるのだけど、いっそ攻めることにした。こちらから向かって行く。オスジカの目線で考えれば、オスジカ同士の戦闘の場面。ぼくの足音だってシカの足音だと思うはず。
そうやって歩き始めて1分ほどで向こうからグイグイ歩いてくるオスジカを発見。
見つけたときは目測で40mくらいの距離にいたのだが、しゃがんで鉄砲を構える頃には25mくらいにまで寄ってきている。ほぼ一直線にこちらに向かってきており、止まるそぶりも見せない。
「あの木を越えたら撃とう」
そう決めた木をあっという間に越えてグイグイ歩いてくるシカに発砲。考えてみると立ち止まっていないシカを撃つのは初めてかもしれない(これまでは歩いているとしても、立ち止まった瞬間に撃ってきた)。
しかし歩くペースも一定で、なにより近いので外す不安もなかった。
鋭い発砲音と同時にシカはその場で倒れた。
死なないシカ
倒れて足をばたつかせていた。
「このまま1分と経たずに息絶えるはず」
と距離を置いて観察していた。オスジカの角は思ったよりも怖いものだ。瀕死ならともかく、首をガンガン振っている状態では近づけない。
しかし死なない。時間にして30秒くらい経っても死なないどころか起き上がる素振りさえ見せていた(でもまったく立てない)。
「もしかして致命傷になってない?」
無駄に長引かせるのはかわいそうだったので、弾を装填し直して止め矢を撃った。
初めての止め矢らしい止め矢だった。これまで自分が狙って撃ったシカで止め矢が必要になったことはない。すべて1発で仕留めてきた。せいぜい1分程度で息絶えた。唯一の例外は撃ったシカを貫通して、後ろのシカに当たってしまったときだけ。あのときは致命傷にならなかったし、そのうえ逃げていたので、止め矢は撃ったのだが、近寄れなかったのでかなり離れており、今回のように目の前の獲物に弾を撃ち込むのとは違う感覚だった。
鉄砲は飛び道具だから、やはり「撃つとき」の殺傷の感覚がいくぶん薄いのかもしれない。こうやって目の前で撃つとやはりその感覚は高まる気がする。
まぁ、スーパーで肉を買うのに比べれば五十歩百歩だろうが。
とにかくシカはそこで事切れた。
獲れるときは呆気なく
獲れないときはどうやっても獲れないのだが、獲れるときは「どうやっても獲れるな」と思うような場面であることが多い。初めて獲ったシカもそうだった。それまで難しい場面でばかりシカに遭遇しては「こんなのを獲るなんて、ベテランの人たちってとんでもないベテランなんだな」と項垂れた。しかしある日、鹿の群れが自分に向かってきて、それを待ち伏せたところ、呆気なく獲れた。距離も近く、誰が撃っても外さないだろう。準備をする時間も十分にあった。
今日もそんな感じ。
もちろん、シカが多い場所を見つける経験値、その場所を静かに歩く技術、鳴いたシカに対する素早い判断など少しはあったのだろうが、まぁ、大したもんじゃない。あの場にいれば、十中八九は獲れるはず。
オスジカは獲らない方針だったのだが、前回獲ったシカが思いのほか美味しかったので、また獲ってみた。
角とか、頭骨とか、そんなに興味ないのだが、せっかくなので角を切って頂くことにした。誰も入らない自分だけの狩猟部屋にでも飾ろうか。
飯を食べて下山
ちょうど腹が減っていたので、その場で飯にした。獲ったシカでも食べようかと思ったのだが、きっちり1食分の食べ物を持ってきているので、それを食べないと荷物が減らない……。
せっかく目の前に上等な肉があるのに、持ち込んだパックのジンギスカンを食べた。サバイバル登山的な発想で「食べ物を持ち込まない(最小限にする)」という挑戦の仕方もあるのだろうが、日帰りの山行なので昼飯までに獲れるとも限らず、踏み出せずにいる。
帰宅後さっそく食べる
帰宅してさっそく獲ったシカを食べた。ぼくらハンターにとっては、こういうシカ肉は珍しい肉ではない。むしろ冷凍庫にたっぷりある常備菜に近い扱いになる。
だから食べ慣れないフランスの「ジビエ料理」ってやつよりも、当たり前に家にある調味料でさくさくっと作って食べれる料理がいい(というかそうやって食べないと減らない)。
今日は漬け焼きにしてみることにした。
料理家でもないぼくの適当な料理だから参考にはならないと思うがメモ程度にレシピを書いておく。
- シカのロースを薄切りにして、醤油・味醂・ごま油を同量ずつ入れたタレに漬けておく
- タマネギを薄くスライスして、フライパンに敷き詰めて、そのうえに肉を広げる(肉をできるだけ低温で調理したいので、あまりフライパンに接しないように、こういう工夫をしているつもり)
- 食べてみたら味が薄かったので、焼き肉のタレと少量のマヨネーズを投入しひと煮立ち。
- うまい
シカ肉は油っ気が少ないので(それがよいところでもある)、なにかで油っ気やジューシーさを演出してやると現代のぼくらには美味しく感じやすい様な気がする。
今回の場合は少量のマヨネーズとごま油が油っ気を、そういった汁を吸ったタマネギがジューシーさを演出しているつもりだ。一緒に食べるとジュワッとうまい。
でも固かった。固くしない工夫をしたつもりだけど、まぁ個体差かもしれない。ぼくは気にならない範囲だ。
夜はおかずとして食べ、朝は残りをごはんに乗せて掻き込んだ。
元気が出る。
また猟に出よう。
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