はじめて橇で狩猟に出てみた話
先日、初めて橇で猟に出てみました。橇に興味を持った理由と、実際にやってみて感じたことを記録してみようと思います。
橇に興味を持った理由
そもそも、狩猟に——とくに獲物の回収に——橇を使うのは珍しいことではありません。というか、むしろ定番です。山中で獲った獲物を回収するのに、定番中の定番とも言えます。
でも、ぼくはずっと避けてきたんです。元来山を歩くのが好きで、「山を歩く」って要素は、狩猟の喜びの一部になっています。
山を歩くことを楽しむ上で橇って邪魔くさいイメージしかないんです。ザックにプラ橇を括り付けて歩くことは可能ですが、山歩きの喜びを疎外する気がしてならないンです。重さは気にならないのですが、邪魔くさい物を抱えて行きたくない。そして橇は邪魔くさい物の代表のような気がして、食わず嫌いしてきました。
もっと言えば、登山畑から来ている人間としては荷物は背負うものであり、引くイメージがないってのもあります。
それが、最近になっていくつかのイメージが積み重なって、逆に「橇がむしろいいんじゃないか?」と思うようになりました。
まずは極地冒険家のイメージです。
もともと冒険家という人種が好きで、その手の本はよく読みます。その中で例えば上記の角幡さんや荻田さんの本を読んで、少し交流させて頂いたこともあり、グッと身近な存在としてイメージできるようになりました。極地の冒険で橇は定番です。
本当にイメージの問題でしかないのですが、橇もいいかもな、と。
つぎに犬橇というキーワードです。
わたしが住んでいる北海道の稚内は犬橇で有名な地域。残念ながら犬橇をやっている人はもういないらしいのですが、犬橇大会の会場としては今でも有名な地域です(昨今のコロナ禍により、ここ2年は中止されていますが……)。
移住してきた当初から、ぼんやりと犬橇というキーワードが頭の片隅にこびりついていました。あくまで遠い誰かの活動としての犬橇です。
犬は犬で飼いたいという気持ちがあります。飼いたいのは猟犬。とくに熊猟の仲間となってくれる犬です。でも、ふと思ったんです。
- 犬のエサのためにもシカはもっと獲る必要が出て来るだろう。
- それならクマ猟犬とはいえ、鹿猟の仲間としても活躍して欲しいな。
- 鹿猟で獲物の回収を手伝ってくれたらありがたいなァ。
「犬橇だ!」
と閃きました。角幡唯介さんの極夜行を読むと、犬一頭+自分で荷物を引いてます。犬だけじゃ無理でも、引くのを手伝ってくれるなら、それで十分。
クマ猟犬と犬橇の犬が両立するというのはかなり甘い考えだと思っていますが、「まぁできたら素敵だな」という妄想を抱くのは悪いことではないと思っています。
そもそも雪上の獲物の回収は背負うより引く方がいいに決まっている。
過去に獲物を雪の上で引いて回収したことは何度もあります。橇ではなく、ブルーシートを使った簡易橇?とでも呼ぶやり方です。橇ほどの効率的ではないのは明らかですが、背負うより楽なのは実感しています。とくにぼくの地域の積雪期だと、シカのいる場所は平地ばかり。上り下りが極端に少なくなるので、考えれば考えるほど、橇が適しているだろう、と。
——という3つの考えが積み重なって、橇に興味が湧いたというわけです。
実際に行ってみた
やる前から1つ想定した問題があります。それは「下り坂だと後ろから橇に追突されるだろう」ということ。それを防ぐために引き紐は棒にしました。実験なのでお金をかけたくなかったため、家にあった木材を使ってみることにしました。
何度か試してから、使いやすいように改造していきましょう。
橇にザックを載せていきます。ザック以外の選択肢も考えましたが、状況に応じて橇をデポして、ザックだけ背負ったり、ザックに橇を括り付けて背負うという選択肢を残しておきたかったんです。
実際に引いてみると、あっという間に雪を巻き込み、橇の上は雪だらけ。
大きな不満はありませんでしたが、引く荷物が重くなるのは明らかな弱点です。せっかく100g200gの軽量化をしても、ここで雪を積んでしまっては意味なし……。
車で言う “幌” のような構造をつけたいですね。
シカも獲れた
2.5時間ほどかけて、超有力なシカの付き場に到着しました。ここに来ればほぼ100%シカはいる場所です。ただし視界が開けているので、遠くで気取られて逃げられることも多い場所。
想定通り足跡が多く、その中でも新しい2頭群れに狙いを定めて追っていくと、30分ほどで追いつきました。オス二頭。こちらにも気が付かず、前足で雪を掘り返して笹の葉をほじくり出していました。
距離は(あとでGPSで計測したところ)138mほど。正面から首に当たって、その場に倒れて即死でした。
射撃のプロセスにおいて、橇はとても良かったです。立ち止まると橇の重さから完全に開放されるので、空荷で撃つのと変わりません。ザックの肩ひもも邪魔じゃないし、ザックの重さからも開放されています。
1点だけ減点なのは、橇の紐から脚を抜く難しさでした。その場で撃つときはいいんですが、ちょっと移動して射線を確保したいとき、橇の紐からスキーの付いた脚を抜かなくてはいけません。これはかなり手間です。
改善は簡単で、引き紐をブラの前ホックのように、腰の前でほどけるようにすれば良いんです。バックルかカラビナで固定しておいて、獲物がいたら、それを外してしまえば自由に脚を動かせます。冬用の分厚いグローブで素早く外せる構造にできれば、ストレスはもうあんまりなさそう。
獲物の回収の容易さは語る必要もないでしょう。
新雪なので、橇も雪に沈みますが、背負っているときは自分の体重+荷物+肉がのしかかり、スキーを履いていても深く沈んでしまいます。橇を使うと、自分の脚が沈まないのが大きな利点に感じました。
これからのこと
橇を引くというのは調子が良いので、今後も橇でやってみます。
そのためにはいくつかの改善を考えています。
まずは「橇の引き紐の前ホック化」。
次に「橇に幌をつける」。
そこまでやって調子が良ければ、ひとまず満足かな〜。気が向いたら自分で橇をMYOGしてみてもいいですね。まだ実験段階なので手の込んだことをやる前に、いろいろ試してみたいですね。
橇なら荷物を増やせるので、猟場にベースキャンプを作って、泊まり込みでやるような未来も想像できます。
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