狩猟用ザックStone Glacier EVO3300はムダのない優等生
今期から狩猟用に新しいザックを導入した。Stone GlacierというメーカーのEVO3300というモデルだ。
あまり日本では情報のないザックなので、少し丁寧にスペックなども紹介した上で、使ってみた評価も書いていく。
Stone Glacierって?
Stone Glacierはアメリカの狩猟ギアブランド。設立の理念が明確で、今日ご紹介するEVO3300にも直結している。
Stone Glacier is a result of 15 years of solo sheep hunts from the Dall country of Alaska to the unlimited districts of Montana’s Beartooth Wilderness. Minimizing pack and gear weight increases usable load, which in turn extends your range in the backcountry. My quest for ultralight backpacking gear began 15 years ago and has been a slow and organic process of development, testing, and refining. The goal has been straightforward: build the lightest, most durable gear using only the toughest technical materials available. After hundreds of miles of testing on the trail, years of research and design, this goal has been accomplished. Stone Glacier…redefining the capabilities of ultralight.
(以下、翻訳に満たないざっくりした意訳)
Stone Glacierはアラスカからモンタナにかけて、15年の羊狩りなどの経験から作られた会社です。ミニマムで軽いギアがあれば、より多くのものを背負えます。ぼくのウルトラライトへの冒険は15年前に始まり、ゆっくりとテストと改善を積み上げてきました。ゴールはシンプルです。もっとも丈夫な素材を用いて、もっとも軽いギアを作ることです。長い年月のテストとリサーチにより、ようやくゴールに辿り着きました。
とまぁ、もっとシンプルに言えば『Stone Glacierは狩猟系のウルトラライト系ギアを作る会社』である。
EVO3300のスペック
その中でもEVO3300は標準的なモデルの中でもっともシンプルで小さなザックとなっており、Stone Glacier製品のザックの中で、日本で使うならこれが1番じゃないか、と自分としては思っている(27Lくらいの小型パックもあるので、そちらも選択肢として考えていいと思う)。まずは基本的なスペックを見ていこう——
※以下、すべてのスペックは公式サイトを参照に、日本語圏で伝わりやすい単位に換算した。
重量:約1.8kg
容量:約54リットル
対応重量:68kg超
拡張スペース(肉を積むスペース):約40リットル
ジッパー:YKK#10
素材:CORDURA 500 + Xpac
バックル周り:1インチDuraflex(米軍認証)
アメリカ製
よく見てもらうとウルトラライト感が伝わると思うが、重さの観点で、他社製品を1つ比較してみよう。
“肉を背負う系” のザックとしては圧倒的知名度を誇るミステリーランチの、ポップアップ38のスペックを見てみよう。
重量:2.4kg
容量:38L
容量38LとEVO3300と比較して16L小さいはずなのに、0.8kgも重い。これだけ比較して「どちらが優れている」と言うつもりはない。後述するように、EVO3300は軽くするために小分け収納・ポケット類を徹底的に排除しているため、使い勝手でかなり好みが分かれるだろう。しかし、少なくともStone Glacierの製品がいかに「狩猟用としてはウルトラライトなのか?」は伝わると思う。
またCORDURA500やXpacなどの素材にもこだわりを感じる(ちなみにXpacは外からは見えない部分に使われている)。
以下、EVO3300の特徴を見ていこう。
全体像
SGのロゴ以外に柄らしい柄がないシンプルなザックになっている。個人的にはミリタリーっぽさや、過度な迷彩柄は好みではないので、この見ためが気に入っている。
また、後述するが、縦に3段あるバックル・ベルトがかなり使いやすく、アレコレ削ぎ落としたシンプルな設計の中でもザック全体が使いやすく保たれている要因の1つになっている。
収納スペースは2ヶ所だけ
このザック全体を通して、荷物を入れるスペースは2ヶ所しかない。上の写真にある2つのジッパーがそれだ。サイドポケットや、よくあるフロントのポケットなどは一切ない。
まず奥のジッパーがメインコンパートメントへの入口となる。この写真だと分かりづらいが、ガバッとほぼフロント前面が開く。
メインコンパートメントの中にも一切ポケット類はない。登山用ザックでは定番のハイドレーションを入れるポケットもないし、貴重品を入れる為のジッパー付きポケットなどもない。とにかく大きな1つの袋になっている。
2つめの収納はサブポケットとなるが、入口はメインコンパートメントと同様、上からアクセスする。こちらは上部1/3くらいで、見かけよりはかなり収納力がある。下記写真の手で押さえている範囲がサブポケットとなっている。「小物入れ」と割り切るにはもったいないくらいの収納力がある。
ベルト部
ベルトにも一切ポケットなどはない。登山用のザックだとよく小物入れのような申し訳程度のポケットが付いているが、その代わりにベルトが2本ついている。そこに自分でアレコレ取り付けることは可能だ。
ぼくの場合は下の写真のように弾差しをつけている。言うまでもないが、ここにあれこれたくさんポーチ類をつけると、ウルトラライト感が薄まっていくので、本当に必要なものに絞って使う方が良いように感じている。
ロードシェルフ
肉を入れるスペースは上記の写真の通り。
フレーム部とザック部がベルトで止まっているので、それらを外しガバッと開く。ただ挟むのではなく、下の写真のように、オムツのような部品があり、ここに肉をはめ込むことになる。
このおむつ(という表現はよくないか?笑)にも工夫がある。上の写真をよく見てもらうと分かるが、オムツの最下部はフレームの下まで届かないようになっている。つまりザック全体の中で、肉は少し浮いている。
これにより肉というもっとも重い荷物の荷重が上に行き、背負いやすく工夫されている。
長所・短所
さて、ここからはぼくが使ってきて感じた長所や短所を挙げていく。
まずは長所から——
軽い
まず言わずもがなの、軽量さ。1.8kgで54L+肉を背負えるというのは、なかなかの優等生。
1アクションで荷物にアクセスできる
よくある登山ザックだと雨蓋があって、それ自体がトップポケットになっていることが多い。その場合は、トップポケットこそ1アクションでアクセスできるが、メインコンパートメントへは雨蓋を開け、さらにメインコンパートメントへの入口を開けて、ようやく荷物にアクセスできるようになる。
登山用のザックだと細かい外側のポケットが優秀で、メインコンパートメントを開ける機会が少ないため、それでもストレスがないかもしれないが、これだけポケットがないデザインだと、どうしてもその頻度が高くなる。
使ってみると分かるが、メイン部上部によく使うものを入れておけば、即座にアクセスできる。
荷物が少ないときの収まりが良い
54Lもあるので、はっきり言って、容量だけ見るとかなりオーバースペック。
じつは買うかどうかで1番悩んだのはこの点。当初、ミステリーランチのザックを買おうとしていたとき、28Lのモデルを検討していたくらいで、容量はせいぜい40L以下で考えてた。しかし、Stone Glacierはこれが最小。
ザックって、中身スカスカだとかえって使いづらいことがあり、大は小を兼ねないことが多い。悩みに悩んで「まぁ、ヒグマをトラッキングする場面なんかでは荷物が増えるから……」と自分を納得させて購入に至ったのだが、使ってみてその心配は吹き飛んだ。
縦に3段あるベルトが優秀で、よく見ると2つの締め方向に別々に圧縮できるようになっている。
- 厚み方向
- 横幅方向
この「厚み方向の圧縮」が良い具合で、荷物が少ないときに、下の写真のようにわりと自在にザックを成型できる。
見てもらうと分かると、上は厚く、下は薄く、と逆三角形になっており、荷重が上に掛かるようにしている。言うまでもなく、下の方には使用頻度が少なくわりと軽いもの——ゲームバッグや緊急時用のツエルトなど——を収納し、上の方には水や食べ物を中心に使用頻度が高いものが入っている。
先述の通り、上からのアクセスは1アクションなので、行動中の使用感はすこぶる良い。
そのうえ、解体するときや「ツエルトを張りたいな」と思うときは、ガバッとフロントを開いて、必要なものをスムーズに取り出せるという強みもある。
とにかく、荷物が少ないときの収まりが凄く良い。実際に手に持ってみても、荷物が少ないからと言ってフワフワと不安定な感じがしないのが良い。
フィット感が良い
背負ったときの相性が良い。こればかりは人によるのだろうけど、自分には合うようだ。
丈夫さ
トレッキング界隈のウルトラライト系のギアはどうしても堅牢性を犠牲にして軽くしていることが多いが、こいつはそのあたりは妥協していないのがわかる。
実際に延々と藪漕ぎをして、地面に投げ、その上に座り、枕にして横になったりもしたが、傷んだ気がしない。
持って見れば分かる丈夫さだ。
弱点
ここからは弱点や欠点と思われることを挙げていこう。また、そういった弱点と自分がどう付き合っているかも
小分けが一切できない
ここまで繰り返し書いているように、小分けするようなポケットなどは一切ない。たとえばサイドポケットがないので、行動中の飲み物や行動食をどうするか、と頭を悩ませることになる。
この点は自分で工夫するしかないのだが、実のところ、下手にザック自体にそういう機能が付いているよりも、自分で工夫させてくれる方が嬉しかったりする。というのも、市販のザックだと100%満足するということが少なくて「このポケットいらね〜」なんてこともあって、そのいらね〜ポケットのために重くなったりしていると思うと、精神衛生上よろしくない。
とはいえ、一切ポケットがないことで、工夫が要求されるので、ポンっと届いた瞬間から即戦力、というよりは、何度か使っているうちに馴染んでくるタイプのザックだと思う。
肩ひもがしっかりしているので据銃に慣れがいる
肩ひもががっちり厚いので、背負う分には身体に優しい。しかし、狩猟は鉄砲を撃たなければならない。撃つ上では、肩にはなにもないのが理想で、あるにしても薄いに越したことはない。
ところがこいつは結構しっかりしている。70kgくらいは背負う前提のザックなので、ペラペラの肩ひもじゃダメだ、というのはわかるが、どうしても据銃の邪魔になるのは否めない。
何度も練習し、まぁなんとかなりそうだ、と思えるようにはなったものの、やっぱり据銃姿勢としては違和感があり、余裕があるシチュエーションなら、ザックを下ろして撃ちたいと思ったり。
実際は大満足のザック
——とまぁ、あれこれ書いたけど、どれくらい気に入ってるかというと、“狩猟中にザックの存在を気にしなくて済むくらい” 気に入ってる。所有欲が勝って気に入っている道具と違って、道具として使いやすいので、存在を適度に忘れて、本当にやりたいことに集中できる。そういうザックになっている。
ただ、本文中にも書いたように、パッキングなどに工夫がいる部分があり、本当に使いやすく感じるまでに何度かの狩猟を経る必要があった。
パッキングや収納の工夫については改めて別の記事として書こうと思っているので、知りたいことがあったら要望してください。
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