単独猟日記:初めて山でヒグマを見つけるも、足跡が読めず断念
今猟期2度目の出猟でヒグマを目撃することができた。2年越しの探索でようやく、だ。
そのシチュエーションとその後のことを記録しておこう。
——この日の計画
前回のブログにも書いた通り(参考:単独猟日記:2021年初猟はヒグマの糞から始まった……)、ヒグマの餌場をよく理解する必要があると考え、今日はとにかくヒグマのエサになるものを探そうと決めていた。願わくば、その中で食痕や糞などが見つかればなおいい、と思っていたが、とにかく「まずはエサ」という気持ちだった。
ヒグマに関する情報を調べると、この時期に食べるものの代表がコクワ(サルナシ)・ヤマブドウ・ブナ類のドングリあたりだという。ブナ類はよく見かけるが、コクワ・ヤマブドウはあまり生えている場所を知らなかったので、勉強も兼ねてこれらを探すことに決めていた。
つる植物が多い場所
狙いを定めていたのは、昨年真新しいヒグマの足跡を目撃した場所だ。
この辺りはつる性の植物が多い印象だったので、コクワ・ヤマブドウなんかもあるかな、と思っていた。正直に言うと、樹木に関する知識に疎いので、闇雲に歩き回るしかないと踏んでいた。
ミズナラ・コナラの木を見上げつつ、ドングリを探すが、どうも見つからない。実がなっていない……。探し方が悪いのか。成熟が遅いのか。「もしかして、これってミズナラ・コナラじゃないのか?」と疑心暗鬼になるが、たぶん間違いない。少なくともドングリがなるべき樹木のはずだ。
そしてコクワ・ヤマブドウはと言えば、それっぽいつる性植物を見上げるも、やっぱり実がなっていない。これは実がなっていないというよりも、そもそもコクワやヤマブドウではない植物を見ている可能性が高い。見慣れていないので、それは仕方がない。とにかくそれっぽい植物を見つけては、見上げて実を探すのを繰り返していた。
そして「実がなっていないな」と諦めって下を見ると、必ずと言って良いほどフキが食べられている。この辺のクマはフキばかり食べてるのだろうか?
そんな中で現れたヒグマ
そうやって木から木へ、ツルからツルへ、と渡り歩いていたときだ。
30〜40m先にある針葉樹の隙間にいるヒグマと目が合った。「目が合った」と認識すると同時に、ヒグマは振り返り後ろに飛んだ。大きな尻を揺らしながら小走りで死角に飛び込み、1度か2度、ガサガサと音をたてたのを最後に気配を消した。
一瞬のことだった。
急いで鉄砲を手に取ろうとか、そんなことを考えもしなかった。
「わークマだ!」
とバカみたいに見惚れていた。一瞬だけ見せたするどい眼光、ふっくらと丸い尻、黒光りする毛、そして毛の下から滲み出る強靱な筋肉の気配……。かわいらしさと屈強さが見事に共存していた。
追うんだ
こんなチャンスはない。とにかく追うことにした。しかしどこかで隠れているかもしれず、闇雲に追いかければ返り討ちにあうだろう。
いきなり追いつくことを望まず、「追うという経験をさせて貰おう」と考えた。ヒグマと遭遇して昂ぶる気持ちをまずは落ち着けて、ひと呼吸置いてからヒグマが立っていた場所に行ってみた。
ところが、足跡がない。
そこにいたのは確実なのに、その痕跡がない。針葉樹林帯の地面は堆積した落ち葉でふかふかになっている。試しに自分の足跡を見てみるといい。まず何も見えないはずだ。
とはいえ、よく見れば「なにかに踏まれた跡」がある。この目でヒグマを見たからこそ「これがヒグマの立っていた場所か……」と判別できるが、そうじゃなければまず注目もしなかっただろう。
そこから何歩か、わずかに地面を蹴った跡がちょっとした藪に続いていた。去年の自分なら怖くて入れなかった藪だろう(先述の記事を参考:単独猟日記:ヒグマのUターンに怖じ気づく)。しかしあれからいろいろ勉強し、覚悟も決め、考えに考えた。闇雲に恐れるのはやめよう、と決めていた。
屈んで、藪の様子を見る。藪は立って見ると視界が悪いが、目線を下げて、犬くらいの高さで見てみると、わりと遠くまで見通せる。藪は10メートル程度で終わるようだし、それほど密ではないので楽に見通せた。その向こうにもとりあえずヒグマの気配はない。
腰を下げて、足下を見ながら藪を抜ける。足跡は見えない。あれだけ大きな動物が歩いたのだからはっきりと痕跡を残しそうなものだが、驚くほどにそれが見えない。ぼくの観察力不足なのかもしれない。あるいは昂ぶった気持ちが冷静さを奪ったのかもしれない。
とにかくヒグマの気配はない。
すぐに見失う
藪を抜けたところでやはり地面を蹴ったような跡があるのを最後に、ヒグマの痕跡は途絶えた。視界の開けた場所なので、近くに隠れている心配もなさそうだが、その分、どっちに逃げたのかも分からなかった。
だだっ広い針葉樹林の真ン中でヒグマを見失った。
まったく足跡が見えない。嘘だと思う人もいるかもしれない。
「そうは言っても、よく見れば分かるでしょ?」
いやいや、見えない。というか、「言われてみれば足跡に見えなくもない、それっぽい痕跡」はある。しかし、それは無数にある。右にも左にもある。
まあ、とにかく見失った。追跡数分。ヒグマは消えた。
探すこと4時間
「見失って、はい残念」
と諦めるられるようなものではない。去年から探し続けてきた野性のヒグマを初めて目の当たりにしたのだ。これまで見てきたヒグマと言えば秋田阿仁町の “くまくま園” と旭川にある “旭山動物園” で見た2頭だけ。しかしその印象とはまったく違った。野生のヒグマは、すごい。探さずにはいられない。
痕跡を見失ったとはいえ、広く探索すればどこかでくっきりとした足跡くらい見つかるかもしれない。追いつけないまでも、次の1歩くらい見てみたい。「ああ、この谷に逃げ込んだんだ」「この尾根を越えたんだ」くらいの観察をしたい。そこから学ぶことはあるはずだから。
その周辺の尾根や谷を4時間ほど歩き回った。ずっと雨が降っていた。アドレナリンが出ていたこともあり、雨の「あ」の字も気にならなかった。全身がずぶ濡れになりつつ、ただただどこに向かうでもなく縦横無尽に歩き回った。ローラー作戦だ。
ただ探し回ればいいと言うものではない。もしかしたら近くに潜んでいるかもしれない、という気持ちがあり、一挙一動に緊張感がつきまとう。藪を見かけるたびに、その中に隠れている可能性を考え、倒木があれば、その向こうで丸くなっているヒグマの姿が目に浮かんだ。
しかしなにも見つけられなかった。いつのまにか雨がやんで日が出ていた。
ぼくのヒグマ体験は完敗だった
こうしてぼくの1日は終わった。その後も、気持ちを切り替えて、コクワ・ヤマブドウ探しを続けたが、それも良い成果には恵まれなかった。
コクワらしき植物を見上げては実がなっていない……と諦めてうつむくと足下にはフキの食われた跡がある。その繰り返しだった。
そんなことを小一時間繰り返していて、ふと思った。
「もしかしてヒグマも同じようなことを考えてたのかな? コクワを食べたくて見上げるけど、実がなっていないから、仕方なく足下のフキを食べた……。そんな可能性もあるのかな?」
なんの根拠もないものの、なんとなくそう納得してこの日の猟を終えた。
この日の猟の様子は動画にもしています。
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