本紹介『極大射程』長距離射程の空気が伝わってくる小説でした
久々に本の紹介です。今日ご紹介するのはスティーブン・ハンターによる『極大射程(上下)』という小説。
これが単純に小説としてもおもしろいし、鉄砲をやっている人ならその緊張感をひりひりと感じられる作品でした。オススメです。
『極大射程』スティーブン・ハンター
こちらの作品は書籍でもKindleでも読めます。わたしは本が溜まり続けるタイプなので、Kindleで買える本は極力Kindleで買うようにしています。
さて表紙はいかにも「ハードボイルド&戦争物の気配が漂う作品」ですね。実際ハードボイルドではありますが、戦争物とは言えない作品です。たしかに主人公の背景には戦争がありますが、戦時中の話でもないし、ましてや軍隊の話なども主題ではありません。あくまで元軍人スナイパーである主人公が巻き込まれる “長距離射程ミステリー” なんです。
さて、あらすじから見ていきましょう。
隠遁生活を送るヴェトナム戦争の英雄、伝説的スナイパーのボブ・リー・スワガーのもとにある依頼が舞い込む。新たに開発された銃弾の性能をテストしてほしいというのだ。だが、それはボブを嵌める罠だった。恐るべき陰謀に巻き込まれ、無実の罪を着せられたボブは、FBI捜査官のニックとともに、事件の真相を暴き、陰謀の黒幕に迫る。愛と名誉を守るための闘いが始まる!
これが本当にエンタメ性の高い作品なんですよ。まず何度も出てくる長距離射程の場面のおもしろさ。とくに鉄砲が好きな人はその緊迫感に打ち震えるはずです。
また鉄砲だけではなく、ミステリーとしてもおもしろい。本当に最後の場面に至るまで、まんべんなくミステリー的要素が散りばめられていて、「え、次はどうなる?」というハラハラ感が止まらない作品です。
冒頭の狩猟シーン
この作品は決して狩猟小説ではありませんが、その冒頭は大鹿狩りから始まります。主人公のボブ・リー・スワガーがライフルを片手に、ティムと呼ぶ雄鹿がやってくるのを待っています。
軍のスナイパーだったボブ・リー・スワガーは待つことの名手。ただジッと待つことに強い能力を発揮するタイプです。
ボブ・リー・スワガーは、ウォシタ山脈の高地にだだっ広く広がる平坦な谷、ハード・バーゲン・ヴァレーに至る最後の登攀を終えたとっつきで、松の老木に背を持たせ、膝にライフルを横たえて、身じろぎひとつせず、音ひとつ立てずに座っていた。これがボブ一流の才能だった。静止の能力。誰に教わったわけでもなく、緊張の手が届かない心の奥深くの池から自然に組み上げてきたものだった。
『極大射程(上)』
猟をする人なら、この気持ちが分かると思います。わたしも父に「釣りとか狩猟ってのは忍耐なんだよ」と言われたことがあります。待つときは待つ。ただジッと、いつ来るか分からないチャンスが来るのを待つ。それができない人は諦めてしまい、もしかしたら1分後に来るかもしれないチャンスをみすみす逃がすわけです。
この作品にはこういう “待つ” という重要さがいたる所で滲み出てきます。そして、とうとう雄鹿のティムがやってきます。
ボブは倍率十倍のリューポルド・スコープの後ろにそっと目を当てた。大気中の光を洗いざらいかすめ取って拡大する無遠慮な目であるスコープが、ティムの頭と肩を実際の十倍の大きさに拡大した。またしても、雄鹿がボブに顔を向けた。しかし今度は雄鹿の姿は照準の十字に重なっていた。
わたしは、自分にとっての初猟期を終える頃にこの作品を読みました。自分が獲ってきた鹿を思い出し、そのときの自分の心境が蘇るようでした。
実際に猟をやってみて、獲物を生の目で見ることと、スコープ越しに見ることの違いを感じたものです。スコープ越しに、まさに十字のレティクルを重ねて獲物を見るとき、その獲物と自分の距離はまさに “引き金1つ分” なんです。
あとはほんのわずかに右手の人差し指に力を入れれば弾が出て、鹿が倒れる。そういう瞬間なんです(実際には外したりもしますけどね)。
そんな狩猟で感じた緊張感を主だしながら読んでしまいました。
長距離射撃は心の戦い
この作品の中である登場人物が長距離射撃をミスする場面があります。
そのミスの原因はガク引きだとか、フリンチングだとか、そういうことではなく、完全に精神面。集中力の乱れでした。
また、ボブ・リー・スワガーはいかなる場面でも、徹底的に準備をして、不安要素をなくしてから挑みます。一見すると無茶なハードボイルド野郎なのですが、実は超冷静で、計画的で、心底落ち着いていないとダメなんですね。
仮にも鉄砲をやっている人間として、ボブ・リー・スワガーの用意周到・冷静沈着な姿は刺激になるものでした。
ちなみにボブ・リー・スワガーが出てくる作品は、この極大射程から始まり、他にもあるようです。たとえばこちら——
他にも——
こんなの絶対読んじゃいますね。
さらに、この極大射程は映画にもなっています。DVD版はこちら。
さらに調べてみると、Amazonプライムで見ることも出来るようです(つまり、プライム会員なら無料です)。
どうですか? 小説はちょっと……という人も映画なら見てみたくなったのでは?
わたしは映画を見てました。個人的には圧倒的に小説を推します。やっぱり小説の深みを知ってしまうと、映画が浅く見える……。とはいえ、つまらないってこともないので、小説を読む時間がない人は映画でも良いと思いますよ。
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