書評『狩猟家族』サラリとした中にもピリリとした狩猟系小説
今日ご紹介するのは篠原悠希さんの『狩猟家族』。このタイトルを見たときに、こりゃ読まなきゃなーと強く惹きつけられました。
『狩猟家族』
舞台は日本ではなく、ニュージーランド。
就職浪人して、気晴らしにニュージーランドにやってきた主人公の武島遼平。遼平はひとり登山をしていて遭難してしまう。
そこに現れたのが11歳くらいに見えるライフルを持った少女。現れるなり肩に担いでいたライフルを握りしめる。
「あなた、ポウチャー?」
ライフルの銃口は 、少女の足元の地面に向けられていたが 、彼女の表情も態度も 、明らかに遼平を不審人物と判断している 。
ポウチャーとは密猟者のこと。このあと誤解は解けて、この少女の家族に助けてもらい、その家に招待される。この家族が、いわゆる”狩猟家族”。
この家に滞在し、家の仕事を手伝い、まさに仕事の1つである狩猟も教えてもらう。日本で狩猟なんてまったくやったこともなかった遼平だが、指導のもとでウサギなどを狩るようになっていく。
動物を殺すという体験。使役犬である牧羊犬が起こすトラブル。この家族が抱える問題。そしてもちろん遼平自身が抱える葛藤。
こういった様々な葛藤や悩みが、狩猟に取り組みつつ、少しずつ解けていく。そういう物語です。
さらりとした中にも、価値観が交錯する
全体を通して、さらりとした現代的な読みやすい小説になっています。流し読みしていけば、本当にするりと読めてしまうソーメンのような作品です。
一方、その所々に悩ましい問いや衝突があります。ハンターとしては、一度は思ったことがあるような、言ってみれば”あるある”な葛藤です。
「無益な殺生か 。マキもよく言ってた 。遊びで動物を殺すのは最低だと 。だけど 、大物を見たら 、撃ち取りたくなるのは人間の本能じゃないかなぁ 。二十八尖はサマ ーに譲ったけど 、あれを撃つことを思っただけで 、全身にアドレナリンがあふれたよ。
無益な殺生……よく聞く話題です。「無駄なく食べればいい」という価値観。それ自体は否定しませんし、むしろわたしも近い考えです。正確に言えば「できる範囲で無駄なく、美味しく食べたい」というタイプ。成仏とか、そういうことではなく、”もったいない”の精神ですね。
しかし、一方ででかい獲物に興奮するのも事実。食べごろで持ち帰りやすい、若い個体が「食べるという目的」では1番適しているのですが、それでも大物を見ると獲りたくなる気持ちってあるんですよ。少なくともわたしはあります。
この作品の中では、こういった価値観について答えを出すわけではありません。そんな哲学的な本じゃない。所々にソーメンの薬味のように “問い” が散りばめられています。
なにもすべてを拾って、悩む必要はないでしょうけど、読んでいて時々ドキッとするんですね。
さらりと読めるようでいて、じつはジャリジャリした食感もあるんです。そんな作品でした。
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