単独猟日記2:初めての発砲は杉林のオスジカに
単独猟、2日目。行った山は初日と同じ。二度目はさすがに初日のガチガチの緊張感が解けて、少しはリラックスして取り組むことができた気がする。
作戦は車の中で
猟場までの運転もなかなか楽しいものだ。今日の猟の作戦や、道具について考える。「前回、暑くて暑くて服が余計だったから、減らそう」とか「途中で水分補給が足りてなかったから、今日は積極的に水を飲もう」とか「もっとゆっくり歩こう」とか「前回行けなかったあっちのエリアに足を伸ばしてみよう」とか、とにかく考える。
獲れたらどうしようか。
目の前を鹿が駆け抜けたらどうしようか。
そんな嬉しい妄想に身を任せれば、猟場までの運転なんて、本当にあっという間だ。
それは開始20分で起きた
わたしが行く猟場は最初の10分が大変だ。かなり急な尾根を登らなければならない。それこそ両手両足をフルに使ってよじ登る。大変ではあるが、悪いことばかりじゃない。普通、歩き始めてしばらくは身体が冷えているものだが、この10分の大変さのおかげであっという間に身体が暖まる。
その尾根を登りきると広い杉林が広がっている。最初の「獲物の気配濃厚な場所」である。過去、下見で来たときもここで鹿を見たことがあった。
杉林に入って10分も経った頃だ。尾根の傾斜が落ち着いて、遠くまで見渡せる場所がある。そこに立って、回りを眺めていた。
なにか違和感があった。あとで考えてもマヌケだが、その違和感の正体が最初は分からなかった。
「ん?」
とボンヤリ違和感の方向を見ていた。違和感の正体が分かった。2本の細い枝が伸びていた。立ち枯れたしたような、華奢な2本の枝が縦に……。
「杉林に、杉以外の木?」
そう。植林された杉林というのは、本当に杉しか生えていない。下草もあまりないし、他の木が生えることもない。じゃぁ、さっきの立ち枯れた枝って……。
慌てて双眼鏡で覗き込む。でかいオスジカの角だった。肉眼で見ると角だけが縦にスーッと伸びていた。双眼鏡で見ればはっきりと鹿が見えた。そのオスジカと双眼鏡越しに目が合っている。
「え? え?」
本当にでかい。これまで猟場の下見で鹿はたくさん見てきたが、こんなの見たことがなかった。なにより角だ。本州の鹿は、あまり大きな角を持たないというが、こいつはエゾシカなどに比べてもいいくらい、大きい角を持っていた。
撃てる。まずは準備をしなきゃ。弾を込める。鹿が動いたら分かるように、絶対に鹿から目を逸らさない。できるだけ身体を動かないように弾を装填する。こんな時のために、家で弾の装填の練習もしていたのが役に立った。鹿は動く気配がない。
スッと銃を構えてみる。遠い。漠然とだが、100mくらいはありそうだ。立射だとギリギリ当たるかどうか、という微妙な距離。それも射撃場ならばともかく足場も悪く、緊張感の高い山の中ではその成功率も下がりそうだ。
膝撃ちならば絶対に当たる、とその場で座ってみる。すると傾斜の関係で鹿が見えなくなってしまった。慌てて立ち上がる。まだ鹿は動かない。そのことにホッとする。
まわりを見渡し、委託できそうな木を探す。もちろん杉しかない。1番近い杉まで3歩。そこまでソーッと移動する。するとその位置からは他の木に隠れて鹿が見えない。慌てて鹿が見える位置に戻る。委託できそうな他の木を探しているうちに、鹿が立ち上がった。
そう……、これまでずっと立っているものだと思い込んでいたが、その鹿はずっと座っていたらしい。そのことに驚いてしまった。
わずかに顔を動かして、回りを気にしているのがスコープ越しに見えた。
「これ以上動けば逃げる。撃たないと……」
ジッと構え、胸に狙いを定める。不思議と落ち着いていた。当たるかもしれない、とは思った。引き金を引く。山の中を埋め尽くす銃声。何度もこだまして余韻が残る。スコープの中で鹿は慌てることもなく、銃声を合図に走り出した。その様子を見ただけで当たっていないのは明らかだった。
ボルトを前後し、2発目を装填。しかし鹿はちょうど視界から消えるように山奥に消えていった。
落ちた薬莢を拾った。
それを手に、鹿がいた位置を見にいく。
「撃ったら必ず獲物がいた場所をチェックすること」
ハンターの格言のようなものだ。当たっていれば血や毛などの痕跡が残る。しかし予想通り、当たった形跡はない。向こうの尾根で鹿がキャン! キャン! と鳴いている。山中の鹿に警報を鳴らしているようだった。
——わたしにとって山中での初めての発砲だった。
オスは杉林の中?
この日の午後、もう1頭のオスジカに出会った。
別の杉林の中でやはり寝ていて、わたしの気配を察して逃げていった。こちらは撃つこともできず、見送ることしかできなかった。
この遭遇以外にも、杉林の中には鹿が寝ていた跡というのを頻繁に見つけた。
それもたまたまかもしれないが、北側の斜面で多く見かけた。「冬になると南東の尾根に集まる」という漠然とした前知識があったので、どうも知識と現実が食い違う気がしていた。
あとでTwitterで聞いたところ、「まだ鹿にとっては寒くないのでは?」というご意見を頂いた。たしかにわたしが寒いからといって、鹿も寒がっているとは限らない。むしろこれくらいで寒がっていたら冬を越せないだろう。
まだ南東に狙いを定める時期ではないのかもしれない。じつはこれまで積極的に南東側の斜面を回るように心掛けていたが、あまり気にしなくてもいいのかもしれない。
昼食も待ち伏せとして……
わたしなりに昼食の時間も、待ち伏せ猟のつもりで音をたてずに静かに待機することにしている。
まぁ、スープを作ったりしているので匂いでバレているかもしれないが、風向きによっては寄ってくることもあるかもしれない。
というか、実は今回、昼食を食べていたら “何か” が寄ってきた。向かいの尾根をガサガサと歩いていて、確実に猪か鹿サイズの獣だった。そいつはわたしを気取ったのか、あるいはもともとこっちに来る予定はなかったのか、姿を見せることもなく消えてしまった。
そんなときに痛感したのは「コンビニのおにぎりやビニール袋の騒音」だった。山の中ではビニール袋をいじる音というのが思いのほか大きく聞こえる。あるいは気にしすぎなのだろうか?
どうしても気になるので、今後ビニール袋は持って行かないことにした。また、コンビニのおにぎりはゴミも出るし、そのゴミもうるさい気がして気になるので、タッパーでご飯を持っていこうと思っている。
とか、散々音を気にしている割に、しっかり温かいスープを作っている。温かいものを食べたいから……。
うまいんだもの。
初めての発砲は撃たせてもらったと思っている
今日、開始早々で1発発砲した。
結果的に外してしまったのだけど、その1発から学んだことは多い。まず発砲音。他の人は知らないが、わたしは爆音というものが嫌いだ。銃は好きでも、その発砲音が好きなわけではない。射撃場でも耳栓+イヤマフで、完全に防音をするように心掛けているほどだ。
だから猟の最中に耳栓なしで発砲することがちょっと怖かった。どうしても耐えられないようなら片耳だけでも耳栓をして猟をしようかと思っていたほどだ(それじゃ猟にならない。足音が聞こえないだろう? という意見があるのは重々承知だが、それくらい爆音がきらいなのだから仕方がない)。
今回、耳栓なしで発砲したが音はまったく気にならなかった。やはり屋根や壁からの反響がないので聞こえる音もぜんぜん違うのだろう。とにかくこのことに安心した。今後はびくびくせずに撃てる気がする。
また、猟を考えると、朝一で撃った影響は大きかった。なにしろ山中に「ハンターが来たぞー」とこちらから知らせているようなものだ。外した鹿も逃げながらピーピーと鳴いていた。でかいオスジカが逃げていれば、他の鹿だって危機感を高めるはずだ。
要するに、撃ったあとしばらくは山の緊張感が高まっている。容易に2回目のチャンスは回ってこない(と思う)。
一撃必中。撃つなら当てなくてはいけない。とても大事な教訓だった。もし当たらないなら、いっそ逃がした方がいい。それならその鹿は逃しても、2回目のチャンスがある。
今回の1発、もしかしたら山が撃たせてくれたのかな〜、と今は思っている。肩に力が入って、怖々としているわたしに「そんな簡単じゃないぞ。練習しておけ」とでも山に言われた気がした。
今日の猟データ
遭遇:オスジカ2頭
発砲:1発
猟果:0
歩行距離:8.9km
行動時間:9時間59分
平均速度:0.9km/h
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