カスタムナイフショーの記録、あるいは初めて行く人のための手引き
むかしからナイフという道具は好きでした。
たくさん持っているわけではないし、高価なものを持っているわけではないですが、自分の持っているナイフを使っては、「もっとこうすれば使いやすくなるんでは?」と考え、自宅で研ぎ直して悦に入るタイプです。
狩猟を始めるにあたり、ナイフへの興味はより一層深くなりました。
そんな折、銀座でカスタムナイフショーをやるというので、お勉強がてら行ってみたのです
初めてのカスタムナイフショー潜入!
カスタムナイフショー。
なんと甘美な響きでしょうか。紳士、淑女、セレブに専門家、そんな人が集まりそうな気配を感じさせます。
「そんなところに自分なんかが入っていって気まずいことにならないだろうか?」
そういう心配がありますが、チラシを見ると「入場無料」と書いてある。「ネクタイ着用」とも「一見お断り」とも書いていない。ならば! と行くことを決意したのです。
会場に入って大興奮
行くと決めたら、サクッと行くのがわたしです。
会場は銀座クラシックホール。レトロで気品漂うレンガのビル。裏口にある小さめのエレベーターに乗り、6階のボタンを押します。
チーンと、エレベータの戸が開くといきなり鹿の角の山! 会場の入り口に目を向けると、ずらーっと並んだ長机に、惜しげもなく広げられたキラキラと光るナイフ。
「おお!!」
と「自分なんかが入って気まずいことにならないだろうか?」なんて思っていた自分はどこかに吹き飛んで、ズカズカと会場に入っていくのでした。
そして興奮のあまり、カメラを出すことも忘れました。実はこの記事、写真がありません! ゴメンナサイ。
いや〜、中に入るまでは「記者気分でしっかり記録をとって、写真も撮って、いいレビュー記事を書こう」と意気込んでいたのですが、中に入った瞬間「買うならどれ!?」という本気で選ぶモードに入ってしまい、写真なんて撮れませんでした。それくらいワクワクする会場だったのです。
会場の様子
会場は大きな宴会場に長机を並べ、だいたい1人のナイフ作家が1つのテーブルにナイフを広げています。
並んでいるナイフの種類は多岐にわたり、大型のナタのようなもの、台所包丁、美しいアクセサリーのようなナイフ、タクティカル系、無骨な和式刃物など、なんでもある感じです。
正直な話、「自分みたいに知識がない人間じゃ、ナイフ作家と話しなんてできない」と思っていましたが、とんでもない。みなさんすっごく気さくな方ばかりで、いろんなことを教えてくれます。
それもあまり小難しい専門用語も使わずに、分かりやすい言葉で話してくれる作家さんが多い印象でした。
あと、わたしなりに気付いたのは「ナイフの使い道」を言ってしまったほうが話が弾むということ。わたしの場合は「今後狩猟をやるので大物解体用のナイフに興味がある」と伝えます。そうすると「それならねぇ〜」って感じで、その作家さんのナイフの中で解体に合いそうなものを見せてくれるし、それがどういう理由で解体に向いているのかも教えてくれます。
出会った2人のナイフ作家
パーッと全体を周りながら、ほとんどすべてのナイフ作家のナイフを握りました(あまりに毛色が違うところはパスしたけど)。
すると自分でも驚くくらいバシッと自分に合うものと、合わないものがあるんですね。
持った瞬間、ピタリと手の中に収まるナイフもあれば、似たようなデザインでも収まりが悪いものがある。これらはナイフの良し悪しではなくて、本当に相性なんだと思います。
グルッと全体を回って、自分なりに手に収まるナイフを作られていたのは奈良定守さんと内田啓さんでした。
参考:奈良定守さんのサイト
参考:内田啓さんのサイト
おふたりのナイフが好きすぎて、ふたつのテーブルを数え切れないほど行ったり来たりしてしまいました。そのたびにあれこれ握らせてもらって、ちょっと迷惑を掛けてしまったんじゃなかろうか? と後ろめたくも思うのですが、それほど好きだったのです(内田啓さんの隣のテーブルにいらっしゃった方が「あなた内田さんのナイフ好きなのねェ〜」と笑っていたほどです……笑)。
わたしはカスタムナイフ事情に詳しいわけでも、そもそもナイフに詳しいわけでもない、一介のナイフユーザーですが、自分なりにおふたりのナイフに対して、現地で感じたことをお伝えしてみたいと思います(あくまで現地で感じたことで、実際に使った感想とは違うことをご理解ください)。
内田啓さんのナイフ
持った瞬間「車で言えばスポーツカーだなァ」と感じました。自転車で言えばロードバイクだし、バイクで言えばスーパースポーツ系。
手の中にピタリと収まって、ムダなものは削ぎ落とされて、その分だけ必要なものが強調されている、という感じ。
一見シンプルなのですが、ハンドルの微妙な凹凸がじつは絶妙で、手に持ったときの安定性がすごくいい。
あとで内田さんのプロフィールを見て知りましたが、相田義人さんのナイフメーキング講座に参加し、その後も相田義人さんのもとで修行していたとのことで、恐らくその影響も強く受けていらっしゃるのだろうと思います。
いろいろ長くお話しさせていただきましたが、その中ですごく印象的な会話がありました。わたしが内田さんの2本のナイフが気になり、こっちを手にとっては、あっちを手に取り、またこっちを……、とやっていたときのことです。
「こっちはFielder誌の『小さいナイフで鹿を解体する』っていう企画用にぼくがデザインしたものです。これを気に入ってくれるのはすっごく嬉しいんだけど、こっちもいいんですよ」ともう1本のナイフを手に取る。
「これはね、同じ企画で相田義人さんがデザインしたナイフを参考にしてぼくが作ったんです。やっぱり良くできているんですよ。ぼくはこれがすごいと思ってね。オススメしたいのはこっちなんです」
つまり、わたしがいいと思った2つのナイフはどちらもFielder誌の同じ企画用にデザインされたナイフで、片方は内田さんがデザイン、もう片方は相田義人さんがデザインしたものを内田さんが参考にして作ったものだったンです。
わたしにとっては優劣つけられない2本のナイフ。内田さんとしてはご自身がゼロからデザインしたものを勧めていいところを、相田さんのデザインの良さに感激して、そっちを勧めるんです。
たぶんすっごく研究熱心な方なんだろうな、と思いました。
ご自身のプロフィールを見ると2013年からナイフメーキングを始め、2015年からプロとして出発したとのこと。これからが楽しみなナイフメーカーになりました。
奈良定守さんのナイフ
じつは奈良定さんの名前もナイフもネットで拝見したことがありました。
今回このナイフショーに行こうと思った最大の理由は奈良定さんのナイフを生で見てみたいと思ったことだったりします。
熱気溢れる会場で奈良定さんのテーブルを見つけたとき、「じつは奈良定さんのナイフが見たくて今日は来たんです」とお伝えしたら、こちらが恐縮するほど喜んでくれて、ご夫婦(だと思うのですが……未確認)の笑顔がすっごくステキでした。
そのあとナイフを握らせてもらうと、びっくり。
わたしが最初に手に取ったのはウッドハンドルのナイフでしたが、手に取ってみるとまるでゴムのハンドルを握ったかのような柔らかさを感じます。「ゴムのような〜」なんて言うとおかしいかもしれませんが、堅いはずのウッドハンドルが、柔らかく感じるくらい手にフィットするんです。手のどこにも変な負担がありません。西川布団で寝たときのような心地良さ。あるいは上質なソファに座ったときの適度な弾力とでも言いましょうか。
とても優しいナイフだと思いました。
まさに「お人柄が出ている」という言葉がぴったりです。
「解体用のナイフを探してる」
と伝えると、1本1本見せてくれ、それらの刃の形状の違いなんかを説明しながら、「これだとこう、こっちはこう」と比較して教えてくれます。
不勉強で帰宅後に気付いたのですが、奈良定さんも内田さんと同じようにFielder誌の「小さいナイフで鹿を解体する」企画に参加していたんですね。誌面に出ていたナイフは展示していなかったのような(そういう視点で見ていなかったので不確かです)。
ちなみに、この「小さいナイフで鹿を解体する」という企画で使われたすべてのナイフがマトリックス・アイダさんのブログで紹介されています。興味がある人はぜひ。
参考:Fielder 最新刊(Vol.32)が発売になりました!
カスタムナイフショー、オススメです
行く前は「恐る恐る」という感じでしたが、1度行くとやみつきです。
あれだけの数のナイフを手に取り、作家さんと直にお話をして、勉強させてもらえる機会なんて普通はあり得ません。
入場料がかかってもいいくらいだと思いました(無料なのはありがたいですけどね)。
ちなみに買ったのか? 買わなかったのか?
秘密です。笑
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まさかの画像無し!(笑)
いろんな素晴らしいナイフの「説明」だけで姿が拝めない、当方にとってはまさに生殺しの記事でした。
いつもは冷静なyamakujiさんが興奮して我を忘れるほどのナイフショー、当方も一度は行ってみたいものです。
勿論財布は家に置いたまま。(笑)
初めてオジャマいたします。
ナイフ好きのクロウサギと申します。
ナイフショウで写真を撮ることを忘れるって、同じ経験をした者として大いに理解できます。
奈良定さんと内田さんのナイフが気に入られたという辺りも、お二人のナイフが好きな者として、「分かる~」という感じです。
お二人ともオーダーでお作りいただきましたが、大満足の仕上がりですし、お宝でもあり、山に行くときの腰のものになっています。
ナイフショウって、ホントいいですよね。
ははは、仲間ですね。
最初は「たっぷり写真を撮ってナイフショーの魅力を発信」と思っていたんですが、結局自分が楽しむ方に全力を注いでしまいました。笑
お二人のナイフは大好きですね。
今でもお二人のテーブルに並んだナイフのことを時々思い出します。
お気に入りのナイフを持って遊ぶのは最高に幸せですね。