書評『第十四世マタギ』マタギの生涯を描いた伝記
今日ご紹介するのは実在するマタギである『松橋時幸氏』の生涯を描いた1冊です。
すでにマタギに関する本を読んできた人にも、最近興味を持った人にもオススメできる1冊ですよ。
『第十四世マタギ 松橋時幸一代記』
この本は甲斐崎圭氏がひとりのマタギ(松橋時幸)にスポットライトを当て、その生涯を描いた作品です。
ただし、昨日ご紹介した『秋田マタギ聞書』と違い、聞いたことをそのまま資料として残すのではなく、事実の合間を小説的な想像力で埋めていったカタチになっています。ただ、言うまでもなく嘘を書いているわけでもなく、あくまでリアリティを高めるために小説的技法を使っています。
——クマさん、こんにちは。そう、おもしろいんです。
一昨日ご紹介した『秋田マタギ聞書』は初めてマタギに興味を持った人には読みにくい本だと書きましたが、こちらは違います。小説的なおもしろさをちゃんと兼ね備えているので、極端な話、マタギに興味を持ったことがない人でも、読むことができるというわけです。
——人間の世界には『山でクマに会う方法(ヤマケイ文庫)』って本があるんだから、『山でマタギに会う方法』ってな本でも書いて、仲間のクマに読ませるといいよ。
——いってらっしゃい。
マタギの空気感
本を読めば読むほど、マタギは仲間を大切にし、組織的に狩りをする人々だという印象を持ちます。たとえばこの本の冒頭、中学を卒業してひと月の松橋時幸が、生まれて初めて熊の巻き狩りに行くときのことです。
熊狩で師匠格にあたる岩次郎という大先輩が言います——
特別な手柄さ立でようとするごともネだども、自分に与えられた役目だけばしっかりと果たさねばなんネ。おまえさんがが一人でいくらがんばったところで熊さ獲れるわけでないんだでハ。ケガだけは気ぃつけてやるごとだ
説教じみているとも言えますが、マタギの考え方を表したセリフのひとつだと思います。
資料的な本に比べて、こういうマタギ的な空気感を感じやすい本です。
写真もある
また普通の小説と違うのは、実在する人間を描いたノンフィクションであるということです。
その特長を活かして、ところどころ写真が挿入されています。

上の写真はマタギがいつも腰に下げているナガサ(山刀)。一番左の詳細は分かりませんが、皮剥ぎナイフの一種でしょう。左から2番目はフクロナガサ。恐らくサイズは4寸5分か6寸。あとはマタギナガサの7寸・8寸・9寸でしょうか(大きさに関しては想像です)。
たかだか1枚の写真ですが、初めてこういうのを読む人にもイメージしやすいのでGoodです。
もしマタギナガサに興味を持った人はAmazonでも買えます。
マタギに興味を持った人にオススメ
こちらは今まさにマタギに興味を持ったばかり、という人も楽しめる本です。そういう意味では『秋田マタギ聞書』と対極にある本だとも言えます。
——ほう、どれどれ?
——ごめん、クマさん
——クマ語は読めないよ……
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