書評『マタギ 矛盾なき労働と文化』 あぶらうんけんそわかの願い
ぼくが狩猟に興味を持つきっかけとなったのが、『マタギ』という存在への興味でした。
そのマタギの実態を生々しく描いているのが、今日ご紹介する『マタギ 矛盾なき労働と文化』です。
民族への興味
ぼくはどういうわけか「民族」と呼ばれる人たちに興味を持っているようです。
最初に興味を持ったのはチベットの民。あるいはヒマラヤの民。川喜田次郎先生がヒマラヤ・チベットについて多数の著書を残していて、それに喰らいついて読んでいました。
その後、日本の民族に興味を持ち、サンカと呼ばれる山の民の本を読んだりもしましたね。
で、何かのきっかけで興味を持ったのが『マタギ』でした。
マタギ ≠ 猟師
マタギと猟師は違うものです。人によって定義が違うのでしょうし、答えはないのかもしれませんが、やはり猟師は猟師であり、マタギはマタギである、とぼくは理解しています。
念のため、辞書を引いてみると……
東北地方などの山間部に住む,古い猟法を守って狩りを行う狩猟者。まとぎ。山立 (やまだち)。マタギ。
とのこと。「古い猟法を守って」ってどういうこと? そのひとつの答えがこちらの本です。
あぶらうんけんそわか
この本の中では、かなり生々しくマタギの活動実態が描かれています。
一応、注意しておきますが、動物の解体の様子も事細かに写真で掲載されています。皮が剥がされたクマ、ウサギの写真がドカッと載っています。
さて、動物を狩り、さばき、喰らう、この活動自体はもちろん猟師ならばみな同じでしょうが、マタギをマタギたらしめるのはなんでしょうか?
「あぶらうんけんそわか」
この呪文はマタギが山に入るときに必ず唱えるものであり、また山中でも何か不吉な感じがすればすぐに口にする。
> 『マタギ』 p.14

山を神としてあがめ、神の許しを得て、山に入り、狩りをする。食う肉を獲るために、神に許しを乞う。この姿に胸を打たれます。
またこの呪文はクマを解体するときにも唱えます。
クマの解体をマタギは「けぼかい」と呼びます。ただの解体ではなく、神聖な儀式なのです。

けぼかいで最初に行うのは、祈ることである。熊の魂を鎮め、このクマを授けてくれた山の神に感謝をする。仰向けの熊の頭を北に向け、御神酒を手向けて塩を盛る。
『マタギ』p.14
また熊が大物過ぎて、山から降ろせないときもちゃんと山中で「けぼかい」をやります。

山の中での “けぼかい” が始まった。最初に熊の腹の上に一本の枝を乗せ、それから呪文を唱える。
『マタギ』 p143
ぼくはこの本を読んで身が引き締まるような思いがしました。
「自分がスーパーで買う肉を食べるとき、どれだけ感謝しているだろうか?」
なんて、つい考えてしまうのです。彼らへの尊敬の念が、自分も彼らの側に立ってみたいという気持ちを高めたのだと思います。
この本のもう1つのハイライト「西根正剛氏」
西根正剛氏をご存じでしょうか? 知る人ぞ知るフクロナガサの産みの親であり、又鬼山刀を作る職人です。

狩猟好きはナイフ好きも多いと聞くので、きっと知っている人も多いかと思います。
この本では一章割いて「西根師匠の遺したもの」と銘打ち、このフクロナガサの誕生秘話やマタギとしての西根氏について紹介しています。
「いつかは又鬼山刀がほしい」
と彼のナガサに目をつけていた自分としては、予想だにしない西根氏の名前の登場に興奮してしまいました。
マタギ系の本の中で最初に読むべきかも
この本の他にもマタギに関する本はいろいろあります。すべてを読んだことはありませんが、この本はすごく読みやすく、また写真が多いこともあり、イメージしやすい本だと感じました。
マタギについて興味がある人は、ぜひ手に取ってみてください。
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当方もその本、愛読させて頂いております。
もっとも当方は、罠猟の安全かつ速やかな刺し止め、解体の両立の必要性→その中でも最高と思われるフクロナガサの選択→自分が仕留め肉を頂く獣達の命について考える→マタギ衆の考えに辿り着く。というプロセスだったのですが。
自然が与える日々の恵みや頂く獣の命に畏敬し感謝する。狩猟をしていればマタギ衆やネイティブアメリカン、アボリジニやイヌイット等の自然に寄り添って生きる人達の考えに近づくのは必然だと当方は感じます。
当方使用の四代目西根氏のフクロナガサ。当方はこれ一本で猪鹿の刺し止めから皮剥ぎ腹出し等解体の全て、挙げ句の果てにウナギの背開きまでやらせて頂いております。(笑)
いつかyamakujiさんも是非手にされて、御山へと恵みを頂きにあがってください。(^_^)
コメントありがとうございます!
フクロナガサをお持ちなのですね。羨ましいです。参考に教えて頂ければ嬉しいのですが、差し止め〜解体を1本でまかなおうと思うと、ナガサの長さ(ギャグになってしまった……笑)はどのくらいが良いのでしょうか? お持ちのフクロナガサの大きさを教えて頂けませんか?
この本はきっとマタギに興味を持った人にとっては有名な本なのでしょうね。仰るとおり、ネイティブアメリカン、アボリジニ、イヌイットなどにも興味が湧いてますし、最近、アイヌにも興味を持ちました。これは狩猟とは別に民俗学的興味ですが……。狩猟免許+銃所持許可に向けての手続きも動き始めたので、恐らく2017年の10月に狩猟を始められそうです。きっと始めたら分からないことが沢山出てくると思います。そのとき、また教えて頂ければと思います!
当方が愛用のナガサのナガサは(笑)八寸です。当方の握力は右手50左手40kgほどですが、これで70kgの猪を仕留めて解体まで全部やると…終わる頃には両手の握力がガタガタです。(笑)ちなみに全部一人でやってます。
解体のみで考えると七寸以下が適しているのかもしれませんが、60kgを超えてくる猪鹿を刺し止めする場合七寸では「速やか」な刺し止めは難しくなるそうです。(七寸、九寸五分を両方使う有害鳥獣駆除班長の伯父の談)
yamakujiさんがどのような場面でどの型のフクロナガサを使うのか?今からじっくり熟考しながら悩んでいけばいいのではないでしょうか?当方もそうでしたが山に行けずに山での狩りを想う時、そんな時も猟師の楽しみだと思うですよ(^ω^)
アイヌ民族に関しては現在「ゴールデンカムイ」という漫画で語られてますね。アイヌに関しては我々大和民族による弾圧の歴史があるにも関わらず、「アイヌの楽しい一面を描いて欲しい」というアイヌの方々の後ろ楯により実現した素晴らしい漫画です。狩猟→採食という場面のみならず色々な要素が詰め込まれた非常に面白い漫画で、今当方も夢中です。(笑)
その他の狩猟の書籍や知識もyamakujiさんに紹介して頂いていろんな狩猟を志す方々の参考になったり、当方の拙い経験もyamakujiさんが狩猟をされる際の参考にして頂けるようであれば幸いです。
お互い楽しく安全に!いい狩りを出来るようこれからも宜しくお願いします。
八寸ですか。でかいですね! しかし、経験者(伯父様)が言うのですから、きっと必要な大きさなのでしょうね。
大きいのも憧れるし、小さいのも便利そう。四つ足をやる以上、地元の猟友会と交流する機会も多いでしょうし、そういう人たちのナイフを見せてもらいつつ、自分に最適な1本を探したいと思います。憧れだけじゃ使いこなせないですし。——と、悩むことが、すでに楽しいです。
「ゴールデンカムイ」は知りませんでした。おもしろそうなので読んでみます。ありがとうございました。