〈アイヌ犬〉獲物を追い散らかすイチと歩く喜びと葛藤

最終更新日

アイヌ犬のイチと猟に出ること自体には慣れてきて、あまり変な不安などは感じなくなってきています。端的に言って楽しいです。

それじゃ獲物が獲れてるかと訊かれると項垂れるしかなく、まだイチを連れての獲物はゼロ。

自分のためにやっている猟だから「ゼロでも楽しい」と悠長なことを言ってられるけど、これで生計を立てていたならばたぶん眠れないくらい悩んでいる気がする。

そんな今、葛藤していることをメモしておこう。

起きていること

まず獲物がないことは、100%全部自分の責任です。

ヒグマを獲りたい。しかも山を歩いて獲りたい、という気持ちがあり、車で走っていて見つけたヒグマは見送っています。

山を歩いてヒグマを見つけて、それを獲るのが目標なのです。それでなくては意味がない、くらいに思ってます。自分で勝手に取り組んでいることなので、こだわるのも自由だろう、と。

実はシカであれば獲れる場面はあります。でもここで第一の悩みにぶち当たります。

「もしシカを獲って、イチがそれに強い喜びを見出したら、シカばかり追うようになるのではないか?」

という悩みです。いかんせんシカが多い土地です。シカの匂いにばかり取り憑かれ追い回し始めたら、本当にキリがない。ヒグマとの出会いなんて感覚的にはシカ30回に対して、ヒグマ1回とか、あるいはもっと少ないかもしれません。シカに気を取られていたら絶対にヒグマには出会えない。そう思っています。

人間側は「今日はシカを獲る日」「今日はヒグマ優先」と選ぶことはできますが、犬に言葉は通じません。シカを獲る喜びを教えてしまったら、取り憑かれてしまう。そんな気がしてならないし、そうなったらヒグマを獲る喜びを伝えられない気がしてしまうのです。

だから、せめて最初の一頭はヒグマにしたい。

そんな気持ちを持っています。

 

シカを追い散らすイチ

ここまでだけなら「まあ、がんばるしかないな」ってことになりますが、もうひとつ悩みがあります。

イチは何度となくシカを見つけて追いかけています。

バーーっと駆け寄って行って、シカがちょっと逃げると満足して戻ってきます。しかもちょっと誇らしげな顔をしてます。

「ぼく、シカを追い払ったよ!」と言わんばかりです。

シカを獲りたいわけではないので別にいいのですが、同じことをヒグマにやられたらショックはでかいです。真面目な話、獲物を獲りたければイチより先に見つけて撃つしかない、と考えています。

 

葛藤

ここで葛藤が生まれました。

どうにかしてイチに「お父ちゃんは鉄砲で獲物を獲ろうとしている」ということを教えなくてはいけません。そのためには獲ってみせるしかないわけです。その喜びを糧にして「よし僕も」と獲物を獲る猟欲を培いたいのです。でも、そのためにシカを獲ると、先ほど書いたようにシカばかり追うようになってしまいそう。

猟欲の開花のためにシカを獲るべきか。ヒグマにこだわるべきか。

今のところはイチもまだ子どもなので急ぐこともない、とヒグマを優先していくことにしています。正直、イチは獲物を追い散らかしてばかりなので、獲物を獲るには邪魔とも言える状態です。ヒグマにせよ、イチなしのほうが獲りやすそうな気がしています。

でもそれでいいかな、と。

急ぐ必要はないし、猟果以上に一緒に歩く喜びだとか、イチから勇気づけられることに重きを置いています。

 

自分だけではないからおもしろい

犬なしの単独猟では、自分でコントロールできる幅が大きいです。

歩くルート。ペース。体力。すべて自分次第。

一方でイチと歩いていると、イチに促されていく道も増えます。いつも通っていた猟場でも自分なら絶対に入らない藪にイチが入っていき、「えーそこの藪に入るの!?」と文句を言いながらついて行ってみたら、すごく開けていて、けもの道の濃い、いい感じの山に辿り着いたこともあり、発見がとても多いです。

自分の感性だけじゃなくて、イチの感性にも委ねながら、新しい目線で山を歩けています。

いまはそれでいいのかな。悩みます。


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。2022年からはアイヌ犬のイチを連れて一銃一狗に挑戦します。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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