【初級編】単独忍び猟とはなにか?
「自分は単独忍び猟に取り組んでいる」という発言をしたことはあれど、「単独忍び猟とは、そもそもなんなんだ?」という基本的なことを書いたことがない気がします。
ここで書こうとしているのは「単独忍び猟の深淵、神髄、奥義」ということではないです。あくまでぼくが知っている基本的な「単独忍び猟とは」を書こうと思います。これから狩猟を始める人の参考になればいいな、と思います。
単独忍び猟のイロハ
読んで字の如く、ひとりで(単独)、獲物に忍び寄り(忍び)、獲物を獲る(猟)、という狩猟における猟法です。
言葉の意味としては、これで説明は終わってしまうんですが、実際に取り組んでみると忍び猟の中にもバリエーションがあるように思います。ここでは3つに分けてみましょう。
1.付き場を歩いて回る
たとえば寝屋と呼ばれる「獲物が寝る場所」だとか、休み場所や餌場などの獲物の付き場を知っていれば、そういった場所をソーッと見て回るのが1つのパターンです。
ぼくもよくやります。ようするに「このあたりはよくシカがいるよな〜」という場所にソーッと静かに忍び寄って、いたら撃つ、というスタイルです。
2.獲物の痕跡を追う
獲物の足跡を追っていって、追いついたら撃ち獲るというやりかたもあります。
ぼくは雪の時期になるとこのパターンを好みます。雪だと足跡がハッキリ残るので、追うこと自体は簡単だからです。ただし、追いつけるかどうかは、足跡を読む力と、気取られずに近寄る技術が必要になるので、言葉で言うほど簡単ではないです。
3.待ち伏せる
獲物が良く通るところや、付き場といわれる場所に先回りして待ち伏せるという方法もあります。
狭義の意味ではこれは忍び猟ではなく「待ち伏せ猟」である、という考えもあると思いますが、ぼくは忍び猟の中での手札として “待ち伏せ” というテクニックは使えると思っているので、忍び猟の一部としての「待ち伏せ」というのもあるのかな、と思っています。
(たとえばコール猟のように、最初から待ち伏せ一択というスタイルだと、まぁ、言葉として「忍び猟ではないかな?」と考えてますが、まぁ、このあたりは言葉遊びみたいなものなので、あまり堅く考えることもないと思っています)
【番外編】なんとなく歩き回る
狩猟を始めてすぐの頃は、「わけも分からず、なんとなく歩き回る」という形になりがちです。
獲物がどこにいるのかも分からず、追い方も分からず、待ち伏せるべき場所も知らず……、言ってみれば、そういった有効な手がかりや技術を身につけるまでの模索的行為として「なんとなく歩き回る忍び猟」というのもあるのかな、と思っています。
たとえば狩猟者として初年度で、下見などまったくせず、いきなり「単独忍び猟だ!」と初めての山に入れば、この形にならざるを得ないでしょう。でも、これを何度もやっていく中で「このあたりはシカをよく見かけるな」みたいな知見が蓄積され、ここまで説明した「付き場を回る」「痕跡を追う」「待ち伏せる」というテクニックで取り組んでいくことができる、というわけです。
「初年度から単独忍び猟は難しい」と言われる所以はこのあたりにもあると思っていて、たしかに手がかりゼロから獲物に辿り着くには根気がいるわけです。たとえば巻狩などのグループ猟を通じて、そういった手がかりを貯めてから単独猟に取り組んだ方がいいよ、という意見には頷けるものがあります。
単独忍び猟の1日
実際には日によってバリエーションがありますが、ある日の猟を取り上げて、その一部始終を紹介してみます。
【計画編】
季節・天気などから、その日の「付き場の候補地」をいくつか思い浮かべて、そういった候補地を回るルートを決める。
【狩猟編】
付き場を回って歩いていく。ペース配分としては、有力なスポットはペースを落とすだろうし、そうでない場所はわりとサクサク歩いちゃったりもする。ペースや集中力に緩急をつけないと1日もたない。
歩きながら有力な痕跡を見つければ、付き場を回るのを中断し、足跡を追う。追いついて獲れることもある。
追っていてダメだと判断したら、付き場周りに戻る。また痕跡があれば追うかもしれない。その繰り返し。
1日を通じて、とても静かな猟。獲物に出会わない限り、ただソーッと山を徘徊するだけ。
【捕獲後】
見事に獲物を獲ったら、状況に応じて、臨機応変に処理をする。引きずって車まで戻るなり、現地で解体し、残滓を埋設するなり。
何をするにせよ。ひとり。
体力的には1番大変な行程かもしれない。
単独忍び猟の道具
忍び猟で必要となる道具に入り込んでいくと、ながーーーーくなる気がするので、大雑把なことだけ書いてみます。あくまで自分の考えの中の、さらに上澄みを書いているだけですので、自分で考えてみましょう。
【銃】なんでもいい。誰にも文句は言われないですから。ぼくは個人的趣味としてボルトアクションが好きなんですが、必然性はないです。
【ナイフ】なんでもいい。
【双眼鏡】個人的には確実に獲物を観察するために双眼鏡を携行することをオススメします(6〜8倍あたり)。
【獲物持ちかえり用のなにか】これは状況・地域・季節によって大幅に変わります。ザックに肉を入れて背負うなら、肉を入れる袋が必要ですし、雪の中を橇で引いて帰るなら橇が必要です。個人的にはビニール袋は避けたいです。布系の袋やサラシなどが使いやすいですね。
【服装】登山ウェア路線、作業服路線、ミリタリーウェア路線、ハンティングウェア路線に分けられるかな。まぁ、お好みで。いま持っている物があるなら、それを活かせばいいでしょう。
【靴】登山靴、長靴、地下足袋あたりが定番
あとはアウトドア的に必要なもの。行動食、お弁当、水、ファーストエイドキット、防寒着など。そういったもの登山的常識と、自分の経験値の中で決めることかな。
単独忍び猟の始め方
もう思い切って言えば「鉄砲を担いでひとりで山に入れば、それが単独忍び猟だ」くらいに思っていますが、一点だけ強調しておきたいことが「安全性の確保」ですね。
ここでいう安全には2つの意味があります。自分の身の安全と、他人の安全です。
【自分の身の安全】
ひとりで山を歩くのだから山での事故に対してはよく考えないといけないですね。
道迷い遭難。怪我による行動不能。日が暮れちゃって動けない。病気……などなど。
究極的には自己責任なので他人が止める権利はないものの、こういった基本的リスクに対して自分なりの答えを持っておきたいですね。たとえばGPSを使えば道迷い遭難は回避しやすいですし、怪我のリスクはファーストエイドキットである程度カバーできます。その上で行動不能ならばココヘリや山岳救助サービスなどを活用して、助かる確率を高めることもできるでしょう。
どこまでやっても100%はないので、どこまでやるかは自分次第。自分が納得していればいいと思います。
【他人の安全】
要するに誤射のリスクが主な問題ですが、じつはそれだけじゃないと思っています。
たとえば「半矢になって暴れた獲物が道路に飛び出て交通事故」だとか「半矢の獲物が人里に降りて暴れて……」なんてなったら困るわけです。
誤射のリスクを100%防ぐ方法はないと思いますが(という言い方に不信感を持つ人もいるかもしれないけど、「人は間違えを犯す」という前提に立てば100%はないと言うべきだと思います)、たとえば撃つ前に双眼鏡ではっきり目視するような習慣はよいと思っています。1番ダメなのは「あれはシカだよね? ね? まぁ、人がいるわけないし、撃っちまおう」みたいな発想です。
忍び猟では他人が見ていないので、マナーある行動は自制心にだけ支えられています。気が焦る人は向かないかもしれません。
獲物を見て「ワー獲物だー撃てー」みたいに昂ぶってしまうのは考えもので、むしろ冷静な目で見て考えてから撃つくらいがちょうどいいいかな、と思ったりしてます。
なんにせよ、こういったリスクのことをよく考え、自分なりの考えを持っておくことは大事なコトだと思いますし、それこそが「単独忍び猟の始め方」なのかな、と思っています。
単独忍び猟の苦労
単独忍び猟という猟法はひとりで完結するので、満足度は大変高いです。
しかし、大変な面もあります。ざっくり言えば2つ。
(1) 獲物の運び出しは超重労働
(2) そもそも獲物が獲れない
始める前から分かってはいると思いますが、知るのとやるのとでは雲泥の差。実際にやってみると「こんな大変なことやってられるか」と思う人も多いようです。
それに獲物を獲っても、一緒に喜び合える仲間がいないことに物足りなさを感じる人もいるようです。いまはスマホやらSNSやらがあるので、仲間内で猟果報告をして、そういった欲求を満たしている人も多いでしょう。
でも獲物を獲ったあとに訪れる山の静けさは、単独猟独特のものかもしれないです。ぜひ堪能して頂きたいですね。
初心者が単独忍び猟だなんて……
さて、世間では「初心者が単独忍び猟だなんて……」という否定的な意見もちらほら見かけます。
それはここまで書いたとおり「自分の遭難のリスク」「他人を傷つけてしまうリスク」に加えて、「銃の取り扱いになれていないのに、ひとりで山を歩くなんて」という指摘もあると思います。
個人的には「グループ猟ならその点は安全」とも思わないんですよね。巻狩にも巻狩のリスクがあり、猟法を変えたからと言って急に安全になるものでもないと思っています。漠然と「初心者が単独なんて」と縛るよりも、ちゃんとリスクを語り、対策を考え、適切な始め方を伝えてくれる人が増えたらな、と思っています。
なんとなく伝わるでしょうか?
あくまでこれから狩猟をやる人向けに書いたつもりです。人によっていろいろ捉え方、考え方、見えている景色は異なるでしょう。
ぼくなんてその表層しか見えていません。その深さは底知れず、底にはいったいなにがあるのか? そんなことをよく思います。
とっても魅力的な猟法ですが、初心者には勧めない、という風潮もあります。そういう意見にもぜひ耳を傾けて、自分なりに納得して取り組んだ方がいいでしょう。
また、おもしろいと思ったらこちらをクリックしていただけると、ランキングが上がります。応援のつもりでお願いします。
ブログ村へ