【書評】山の旅人 冬季アラスカ単独行

最終更新日

冒険物の本はやっぱり読みたくなります。今回読んだのは『山の旅人 冬季アラスカ単独行(栗秋正寿)』。

共感と刺激のある本で、仕事の合間を縫うように、2日で読み切りました。手触りの異なる2種類の冒険が1冊の本にまとめられていて、それらのコントラストもおもしろい本でしたたね。

山の旅人 冬季アラスカ単独行
山の旅人 冬季アラスカ単独行

『山の旅人 冬季アラスカ単独行(栗秋正寿)』

冒険物とか、登山物の本を読むとき、どういうわけかぼくが注目する(というか、なんでかわからないけど目についてしまう)トピックが2つあります。

ひとつは家族を中心とした「まともな人たち」との摩擦。もうひとつは退屈さの受容。なんとなく、この2つがおもしろいと、ぼくは「ああ、おもしろかった」と感じる節があります。

この本にはどちらもあって、ぼくは勝手に満足しています。

 

「まともな人たち」との葛藤

だいたいにおいて、極端な冒険・登山を志す人はまともじゃないですよね。「週末にちょいと登山」くらいの感覚なら十分まともだけど、登山のために仕事をやめたり、極端にリスクの高い山に行く人は総じてまともじゃないと思う。

自分なんかは平凡な人間だと思っているけど、それでも2年4ヶ月もバックパッカー的な旅をしてみたり、狩猟を続けていることも、世間一般の感覚からすると「まともじゃない」と思われているわけです。

 

先日も、うちの宿に泊まりに来た子連れの家族と旅の話をしていると、「いやー普通はそんな長旅できないことですよー」と言われて、それに対して「いや、旅なんて、いまは誰でもできますよ。お子さん(小学生)も大きくなったら簡単にできるから、やったらいいんですよ」と軽く言ったら「いやいや、そんなことそそのかさないで〜。普通に就職して欲しいですよ〜」とわりと本気で言ってました。

就職することが前提で、やりたいことをやるのは「仕事の合間に無理なく」と最初から割り切っている感覚がもうわからなくなってしまっている自分がいるわけです。もちろん仕事にモチベーションがあるならいいけど、ここでいう「普通に就職」はそういうことではなく、月給が入る仕事をやろうね、ということだと思うので、「そんなのいいから何かに情熱を持とうぜ!」と熱っぽく言いたくなっちゃう自分がいるんです。

「もっと熱くなろうよ!」

と思っていたら、そのお父さんがぼそっと「普通に生きるのだって大変な時代だから」とこぼしていて、今度は「そういえば普通ってなんだっけ」と自問させられたわけです。つまり普通の生き方——安定した給料をもらえる仕事ってことかな——を目指すのも大変で、もしかすると、その道を愚直に目指すこと自体が「まともじゃない」という性質を持つかもしれないわけで、極地を歩く冒険家と、安定給与生活を目指す人との間に、なにか共通点があるのかもしれないな、だなんてことをぼんやり考えさせられています。

そうなると、まともな人なんてものは存在しなくて、誰も彼もが「まともじゃない」のかもしれない。

 

まあともかく、まともじゃない人は、まともな人たちとの間に摩擦が起きます。

栗秋氏も例外ではなく、「大学をやめて長期の山旅を続けたい」と親に告白します。みんなに反対され、祖父に「親不孝者が!」と怒鳴られます。

それでも折れず、山旅を続ける道を選ぶわけです。

なんというか、それだけのことなんですが、強烈に励まされるんですよね。

「みんなに反対されたけど、がんばって突き進んで,やりたいことをやっている」という姿に刺激を受けます。

中島みゆきの「ファイト」が好きなんです。そういうことです。

 

退屈さの受容

もう1つぼくが信じてやまないことがあって、登山とか、狩猟とか、たぶん冒険も、実際は退屈な時間が多いということです。

ぼくはそれを隠して,常時「熱い出来事ばかり」っていう類いの冒険コンテンツが好きじゃないんです。まぁ、YouTubeにアップされているベア・グリルスくらい振り切ってくれれば、エンタメコンテンツとしてはいいと思うんですが、でもやっぱり本来はもっと退屈な時間が長いと思うんです。

冒険は分かりませんが、たとえばぼくが取り組んでいる “単独忍び猟” もそう。獲物を見つけてバンッっと狙撃! と撃つような熱い場面は一瞬のことで、1日の大半の時間は静かに黙々と歩いているだけ。もしノーカットで映像化したら観客の95%は寝ると思います。

去年は山にこもって8日ほど狩猟に取り組んだりもしましたが、夜はツエルトを張って焚火をして過ごすわけです。ある意味ではYouTube映えする場面ではあるんですが、実際には夜も長いし、ヒマなんですよ。本当にヒマ。ネットが繋がって、バッテリーがあるんなら、YouTubeでも見たかったです。唯一のコンテンツとして文庫本とラジオだけは持っていたので、それらを貪っていました。

そういうヒマな時間をちゃんと書いて欲しい! という謎の欲求があるんです。いや、べつにヒマだヒマだ、とグチって欲しいわけじゃないんですけどね。そういう時間があった、ということは書いて欲しいんです。

ここでは「ヒマ」と書いてますが、当人にとってはヒマとは違ったりすることもあります。狩猟で言えば「獲物を待ち伏せて過ごす1〜2時間」みたいな時間ってヒマとは違うんですが、やっぱり派手さのない時間で、とっても長く感じる時間だったりします。山をやる人、狩猟をやる人の、そういう時間に考えることとか、やること、感じていること、それを見せて欲しい!!!!!! という欲求があるんです。

たとえば野営している夜。外で獣が歩く音がして不安になったり、寒くて「早く日よのぼれ!」と祈ったり、薄すぎた寝袋を呪ったり、ツエルトの張り紐が緩んでないか不安になったり……。地味だけど、そこに真実がある!と思ったりしています。

まぁ、個人的な欲求なんですがね。

 

この『山の旅人』の、とくに垂直の旅と呼ばれているデナリ(6190m)に取り組んでいるときの栗秋氏の姿はこの意味でぼくはのめり込んで読ませて頂きました。

 

山旅の人、その後

この手の本を読んでいて、いつも知りたくなることの1つが「その後」だったりします。

この本の最後に増補として、その後の活動に軽く触れられております。そのあたりもぼくとしては読後の満足感が高かったです。

いやはや、刺激になりました。


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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