《物語調》あるハンターの出猟の風景

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わたしのブログは情報系の記事が多くなりがちなんで、たまにはちょっと違う雰囲気のものを。

あるハンターの出猟の風景を物語調で書き上げます。フィクションかノンフィクションか、そういうことはどうでも良いのです。

こういうのも楽しんでいただけるようなら、また書きます。

アラームを小さな音量にセットする新米ハンターの気遣い

1番小さい音量にセットしたアラームが鳴る。まだ寝ている家族への配慮だ。普段ならとても起きられない音量だが、猟ともなれば難なく起きてしまう。

猟を続けるために1番必要なものはなにか?

ハンターが集まって酒を飲み交わしながら語り合ったことがある。お金だとか、時間だとか、熱い情熱だとか……、猟に必要なものを挙げていき、結局全員が首を縦に振ったのは “家族からの理解” だった。家族に理解されなければ猟なんて続けられない。無理を通せば家族が崩壊する。家族をとるか、狩猟をとるか……。自明なようだが、思いのほか狩猟をとる人間がいるものだ。

離婚し、暇さえあれば山に行く爺さんもいる。離婚にこそ至らないものの、家に居場所がなく、猟にでも行かないと生きた心地がしないと笑う爺さんもいた。

小さな音量にセットしたアラームは、ああいう爺さんにはなりたくないという気持ちの表れだ。そういう配慮ができない人間に、猟と家族を両立させることはできない。

忍び足で寝室を出た。横目で妻の寝顔を見る。大丈夫。起こしていない。

 

用意、出発、皮算用

寝る前に用意しておいた服を着る。まだ数回しか着ていない新しい迷彩のズボンにジャケットだ。買った日、鏡の前で小さなファッションショーをしていたところ、「軍隊みたい」と笑うでもなく妻は言っていた。

ガンロッカーから鉄砲を出し、弾を用意し、外に出る。まだ朝の5時。日の出まで1時間以上ある。ひんやりと冷えた空気が気持ちいい。

たたんでおいたビニールシートを車に広げ、そこに荷物を積む。家族と共有の車だから汚すわけにはいかないのだ。

鉄砲、弾、許可証、ハンティングベスト、ナイフ、無数の小物……。

「そうだ!」

クーラーボックスを積み忘れていたのを思い出す。獲物が獲れたらこれに入れて持ち帰るのだ。新品未使用。汚れひとつない。

 

車のエンジンをかけると思い出すこと

車のエンジンをかける。冷え切った車内に、冷え切ったハンドル。気持ちだけは昂ぶっている。

エンジンをかけたらすみやかに家を出たい。エンジン音で家族を起こしてしまうからだ。

車を動かし始めた直後、狩猟用の帽子を忘れたことを思い出す。狩猟で必要な記章がついているのだ。忘れるわけにはいかない……。

エンジンを切って、そーッと玄関を開ける。狩猟用のブーツの紐を解く。忍び足で帽子を取りに行く。我ながら完璧な忍び足。物音1つしない。

帽子を手に取り、そこについた記章を撫でる。

さあ家族を起こす前に行こうか。

 

家を出て3分

車で家を出て3分。路上の自販機前に車を止める。

猟の日はいつもこの自販機で温かい缶コーヒーを買うのだ。右から二番目の甘いやつ。

ガタンと出てきたコーヒーを頬に押しつける。痛みに近い暖かさ……。車に戻り、暖気がてら少し待つ。タバコでも吸って過ごしたい時間だが、タバコは結婚と同時にやめた。

携帯にメールが届く。

<もう忘れ物ない? いってらっしゃい>

妻からのメッセージ。

<あ、起こしちゃった? ごめんね>
<そりゃ起きるよ。でもいいよ。それじゃ寝るね>

完璧な忍び足は完璧ではなかったらしい。

 

猟場に着いて主人公に

いつもの林道を走る。日が昇り始め、山の輪郭が温かく光り始める。

林道脇の空いたスペースに車を突っ込む。ワイルドなようでいて、慎重に車に木の枝がこすれないように気を配っている。

車を降り、迫り来る日の出の時間と競うように用意を始める。ハンティングベストを着て、鉄砲を車から降ろす。書類……弾……ナイフ……帽子……と心の中で荷物を確認する。

時計を見ると6:33。日の出の時間まであと1分。

さあ行こうか。すでに冷たくなっている缶コーヒーの最後の1口を飲み、車に鍵をかけた。

鉄砲を背負って山を前にすると、まるで後ろからカメラがついてきているような、映画の主人公になったかのように思える。

「獲れたよ」

そのひと言を言いたくて、今日も山に行く。


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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