書評『猟日記』おもしろい話てんこ盛りの珠玉の狩猟エッセイ
今日ご紹介するのは藤村三至氏による『猟日記』。Twitterでご紹介いただいた本ですが、これが猟系のエッセイ本の中でもかなり上位に入る上質な1冊でした。
ちょっと古い書籍ですが、これは狩猟系の本が好きな人には強くオススメしますよ。
また、タイトルに “日記” とあるので、著者の日常のエッセイだと思われるかもしれませんが、そういう類いのものではありません。著者の経験談や伝え聞いたことをベースにあれこれ考察する、とても知的で、ときにユーモア溢れる読み物になっています。
『猟日記』
まえがきに、著者として、どのようにこの本をまとめたかが書いてあります。
(前略)
従って執筆に当たっては「一般大衆向き読み物」ということに特に留意し、既発表未発表の原稿の中から、専門的なことは極力避けて、主として山の珍談、秘話、伝説といったようなものを抜粋収録してみた。いわば山男の実態報告とでもいうべきものである。
『猟日記』まえがき
とまぁ、ここだけ読むと「山の怪談」的な内容を連想する人もいるかもしれませんが、(まぁ、そういう内容もあるものの)もっと「昔のハンターはこうだった」という意味での珍談・秘話・伝説が多いという印象です。
この本の中からご紹介したい内容は山ほどあるのですが、その中からいくつか興味深い部分を挙げてみたいと思います。
矢幡大菩薩弾
なんだか漢字が多いですが、最後の1字が “弾” になっていることに注意してください。
これはある特殊な弾の名前で、山の人らしい考え方だと思いますし、昔の猟師の用心深さを表しているような気がして感心もしました。
もともとの由来は——
昔から武士は、八幡神を戦の神と信じ、「弓矢八幡大菩薩」とあがめて武運の長久を祈ったものだった。そして、その信仰がいつか「八幡大菩薩矢」というものを生んで、いざ出陣というときには「守護符」として必ずこれを携帯するようになった。
つまり、戦争に携行する矢とは別に1本だけ「八幡大菩薩矢」というものを余分に持って行ったということです。その意図は諸説ありましたが、1つは戦の前に儀礼的に宣戦布告として放たれたとか、負けを覚悟したときに自害するためだったとか言われています。
さて、武士の中には好んで猟師をやる人もいたことから、このアイディアが広がって、「八幡大菩薩弾」が生まれました。これは猟師の身を守るためのもので、通常使う弾とは別に、余計に携行したいたといいます。その矢幡大菩薩弾の作り方は——
鍛冶は七日間精進潔斎した上で2個作り、刀と同様にそれに自分の銘を入れ、さらにお寺に依頼して真言秘法による梵字を書いてもらって、それを刻み込んだという。
ただの予備の弾というレベルのものではありませんでした(本には写真もあります)。猟師の身を守るためのもの、とはいえ、「クマとかイノシシ」を警戒したものではなく、妖怪的なものから身を守るために使ったといわれています。
この弾を撃つ前には祈りの言葉を捧げ、撃てば必ず当たるといわれています。ただし、1度使ったら最後、猟師をやめなくてはならない、と。
おもしろい話ですね。
昔ながらのシカ笛
これ、本気で実物を探してみたいと思っているのですが、日本には昔から寄せ笛といって、鹿を寄せる笛があったそうです。
これが非常に興味深い。著者は実物を持っている人を探し(日本で3こ見つけたといいます)、実際に吹ける人に吹いてもらったそうです。
その音は近くで聞けばひどくぎこちない音で、筆者は「無風流な騒音」と表現しています。ひどい音だったそうです。ただし、少し離れて聞くと、それは鹿の声としか思えない音色で、感動した、と。
これは聞いてみたいですね〜。
そして、そのシカ笛の素材なんですが、母シカの胎内にいるオスジカの革でなくてはならないそうなのです(実際には鮭の革で作られたものなどもあるようです)。
そんなの作れる人もなかなかいないでしょう。
こちらも本に写真があります。いやはや実物の音を聞いてみたい。だれか持っている人をご存じだったら教えてください。取材に伺いたいです、ほんと。
とまぁ、おもしろい話がてんこ盛り
とまぁ、なんだかおもしろい話がとにかく多い。キセル(あの煙草を吸うヤツね)1つでクマを獲る方法とかね。山刀さえいらない、と。
こういう話が次から次へと出てくる。嘘かほんとかは分からないですが、釣り師とか猟師独特とのちょっと誇張した話とか、そういう感じでしょうね。
狩猟系の本が好きな人はぜひ読んでみてください。
また、おもしろいと思ったらこちらをクリックしていただけると、ランキングが上がります。応援のつもりでお願いします。
ブログ村へ