狩猟の言葉:猟をやる人は猟師だろうか?(ジョーク記事)
始めにお断りしておきますが、この記事はジョーク記事です。特に主張も何もございません。さほど重要でもない話題を、さも大袈裟に取りあげてみようという試みです。
「狩猟をやる人を猟師と呼ぶか?」という話題って、定期的に出てくるんです。わたしがTwitterのアカウントを作って、みなさんのツイートを覗き見るようになってから、少なくとも2度は盛り上がっています。
いろんな主張があって、思いがあって、たかが1つの単語の定義なんですが、そこから狩猟をやる人の間にある尊厳にも似た思いが読み取れる気がしておもしろいんですよ。
主文「狩猟をやるからって猟師を名乗るな!」
というわけで、だいたいこの話題の発端はこの主張から始まります。
「狩猟をやるからって猟師を名乗るっておかしくない?」
この主張を裏付けるように挙げられる例の定番は「だって、趣味で釣りをやる人を漁師とは言わないだろ」というもの。
なるほど〜。頷ける内容です。
“師” の辞書的な意味を見てみる
基礎に立ち返って、辞書で “師” について調べてみましょう。
(接尾)
(1)技術・技芸などを表す語に付けて,その道の専門家であることを表す。「医―」「講談―」大辞林 “師”
つまり、教師と言えば「教えることの専門家」、医師と言えば「医療の専門家」を意味します。
“師” を単体で見ると専門家を意味しますが、実は “師” がつく言葉の辞書を調べると、専門家とは微妙にニュアンスが違います。いくつか例を挙げてみます。すべて大辞林からの引用です。
筏師——筏に乗って川を下ることを職業としている人。
占い師——占いを業とする人。
灸師——灸治療を行う者。また、その免許資格。
靴師——靴を作る職人。
などなど。必ずしも “専門家” という表現はされていません。「その分野を生業としている人」という意味合いが強いようです。もちろん、その分野を生業にしているということは、“つまりは専門家である” とも言えるので、結局 “師” がつけば、専門家であるという考え方もできると思います。
では、そもそも専門家とは何でしょうか?
専門家
ある技芸や学問などの専門的方面で、高度の知識、また優れた技能を備えた人。
大辞林 “大辞林”
——となると、“師” がついた言葉は「その道の高度の知識、また優れた技能を備えており、またそれを生業としている人」というニュアンスなのかな?
猟師とはどういう人か?
さて、猟師という言葉の持つ意味を考えるために、いろいろ遠回りしてしまいましたが、そもそも辞書で “猟師” を調べるとどうなるでしょうか?
猟師
狩猟をする人。鳥獣をとることを業とする人。狩人。
大辞林
あれ? あれれ? あれれれ?
“狩猟をする人” と書いてあります。そのあとで「鳥獣をとることを業とする人」とも書いてありますが、辞書的には狩猟さえやっていれば猟師なんです。つまり、1度でも狩猟をやれば、自分が猟師だと名乗っても、辞書的には問題ないということになります。
では、最初に書いたとおり、よく猟師と比較される漁師の意味はどうでしょうか?
漁師
海に出て,魚・貝などをとり生活する人。漁夫。「―町」
大辞林
なんとこちらには「釣りをする人」とは書いていないですね。「魚をとる人」とも書いてありません。辞書的には、あくまで魚・貝をとって生活する人でなければ、漁師を名乗れないんです。
つまり、辞書的には
猟師 → 猟で生活しているかどうかは抜きにして、猟をやっていれば猟師。
漁師 → 魚・貝などをとって生活している人だけが漁師。
となり、そっくりな2つの言葉ですが、ニュアンスは異なるようなんです。
大辞林では「師がつくと専門家」だと “師” の項では言っておきながら、“猟師” の項では「狩猟をする人」と定義をかなーり緩めているようなんです。
う〜ん。どういうこった。
猟師自称問題
わたしのイメージだけかもしれませんが、「狩猟をやるからって猟師を名乗るっておかしくない?」と感じるのって、猟をやっている人がほとんどじゃないかな、と思っています。
友人に「おれ猟を始めたんだ」と伝えたら、「おお、猟師か〜」という反応をされたことがあります。やっぱり鉄砲担いで山に行く人は猟師だと思われているようです。
自分が猟を始めた今、猟師という言葉と自分の間には乖離がある気がしていて、「自分は猟師だ」と自称するのはちょっと気が引けるんです。
(誤解しないでくださいネ。Twitterなどのアカウントで「猟師」と名乗っている人が変だと言いたいわけじゃないんです。それはそれでいいと思います。辞書的にも間違っていません)
なんとなくわたしが思うに
一般人 → <猟銃所持許可・狩猟免許を取得> → 猟師
というステップが近すぎる気がしちゃうです。たとえば医師であれば、医師免許を取得したら医師なんだろうと思います。その免許の取得が超大変で、その免許をもって専門家であることを証明していると思うから。
一方で、狩猟免許や猟銃の所持許可はあくまで「猟という世界に入っていいですよ」という入場券のようなものだと感じています。とるのに時間こそかかるけど、普通の人が最低限の努力をすればとれるものですからね。狩猟免許を持っているからといって、とても専門家とは名乗れない気がしちゃいます。
だから——
一般人 → <猟銃所持許可・狩猟免許を取得> → 狩猟をやる人 → <専門家たる経験や知識を得る> → 猟師
という感じで、もう1ステップあるようなイメージを持っています。実際に猟をやっている人ほど、この<専門家たる経験や知識を得る>というステップの大きさを知っていて、簡単に猟師を名乗れないという気持ちを強めているのかな? って思います。
「猟を生業にする」とは?
さらに言えば、週末にちょっと猟をする人と、それを生活の糧にするためにやりこんでいる人を区別したいという気持ちがどこかにあるんです。
つまり「狩猟を生業にする人こそ猟師だ」という気持ち。
「狩猟を生業にする」と言ったとき、どういうビジネスモデルがあるでしょうか? 思いつくものを挙げてみましょう。
- 獲物の肉を売る
- 駆除費をもらう
- 雑誌・ブログ・YouTubeなどで狩猟の経験を発信して対価をもらう
- 狩猟のガイドをする
- 狩猟体験のイベントの開催
ってなところでしょうか。これらのどれかに当たれば猟師でしょうか? どうかな〜。わたしの主観ががっつり入りますが、「獲物の肉を売る」こそ猟師なんじゃないかな。
一応理由を書いてみましょう。
- 駆除費をもらう → これは有害鳥獣駆除従事者というタイトルがもうついています。
- 雑誌・ブログ・YouTubeなどで狩猟の経験を発信して対価をもらう → これはやっぱりライターとか、メディア側の職業かな、と。
- 狩猟のガイドをする → 釣りのガイドをする人を漁師とは言わないだろうし、“狩猟ガイド” でしょう。
- 狩猟体験のイベントの開催 → これはイベンター
ただ、上記のどれも「肉を売る猟師」の副業としては当然ありえると思ってますよ。
たとえば「冬の間は肉をとって売る猟師だけど、それ以外のシーズンは駆除の従事者もやるよ」「普段は猟師だけど、雑誌にも寄稿しているよ」など。
いわゆる猟師が兼業しやすい職業じゃないかな〜。
やっぱり「お肉を販売している人こそ猟師」と言いたい気持ちがどこかにあるんですよね〜。みなさんはどうかな。
家族の肉を得る人も猟師かな?
わたしがちょっとわからないのは、「生業にする」という言葉の広さ。
つまり、肉を売ってお金にするのは、まちがいなく生活の糧ですよね。それじゃとってきた肉が、向こう1年間の家族の食を支えるとしたら、それは「猟を生業にしている」と言っていいのかも、という気持ちがあるんです。
現金化されていないけど、確実に家族の生活を支えているわけですから。
昔の猟師だって、必ずしも全て売っていたわけではなくて、家族が食べる分は確保していたはずですし……。
ま、いっか。
最初に書いたとおり、ジョーク記事です。
辞書的には猟をやってりゃ猟師を名乗って良いみたい。でも自分が猟を始めて、すごい猟師の存在を知ってしまって、同じ肩を並べて「俺も猟師だ」とは言えないかな、というのがわたしの考え。
ちなみに、誰が言ったか忘れちゃいましたが、Twitterで『「おれは気安く猟師を名乗れない」という考え方自体が、自分がやっている狩猟を深いものだと言いたい気持ちの表れである』というような意味合いのコメントを書いている人がいて、それはあるな〜なんて思ったりもしましたね。
いろんな考え方があります。
繰り返しますが、猟師を名乗るのは構わないと思いますよ。なんにも反対する意思はありません。
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