書評『越後三面山人記』ダムに沈んだ三面の記録

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今はダムに沈んだ新潟の山間の集落『三面』。この三面がなくなる前に、その生活を記録しようと立ち上がったのが、著者である田口洋美さんでした。

この本はその記録の集大成です。東北の狩猟や山での生業などに興味がある人にはオススメできる1冊です。

『越後三面山人記』

三面(みおもて)という集落をご存じでしょうか?

三面は新潟県の北部、山形県との県境に位置する、戸数24戸、人口124人の小さな山間の集落です。といっても、この戸数・人口は昭和56年の記録。いま、三面集落はダムの底。行くことは叶いません。

この三面がダムに沈むという話が出てきたとき、当時映画の助監督だった田口洋美さんがこの集落の生活を記録したのが『越後三面山人記』です。

山の人の記録

山人(やまんど)というタイトルを使うくらいですので、生活の軸は山にあります。

猟はもちろん、川魚、山菜、きのこなど、山の幸を食べ、売り、ときに戦いながら生きてきた人々です。その価値観はいわゆるマタギと通ずるところがあります。

“マタギ” と言うと一般的に秋田県のマタギに始まり、東北にいる伝統的猟法で狩りをする人のことを指します(マタギという語の持つ意味は多岐にわたり、地域性もあるのでとても一般化できる言葉ではないんですけど)。

集落の当人たちは自身のことをマタギとは呼んでいなかったのですが、読めば読むほど、マタギからの影響というか、共通点を見つけてしまいます。

たとえば七串焼きという儀式。簡単に書くと、熊の肉で7本の串を作り、そして山の神様に捧げる「唱え」を胸の中で唱えながら、大鍋の中に投じる。このときの「唱え」が山言葉であり、マタギの山言葉とも通ずるところがあるのです。

マタギという言葉の定義に当てはまるかどうかは抜きにして、やはり山で生きてきた人々に共通する、山を信仰する気持ちに感銘を覚えます。

クマを尊敬

マタギもそうですが、決してクマをバカだと思っていないですよね。それをかんじさせるのがこの部分です。少し長いですが引用させてください。

クマはクマでたいしたもんなんだ。山の獣では一番山の神様に近いところにいるんださがで、山の中では人間よりも賢いわけだ。何っ、人間なんてひとりで山の中放り出されれば何もできねぇんだし、山の中では落ちこぼれなんさなー。
(中略)
奴等は人間みたように文明がなけりゃ生きていげネェなんて意気地のねぇことはいわねぇもんだ。そのままの姿で、体一つで自然の中で生きていげる力持ってるんださがで、すごいもんなんだ。

こう思っている人が、そのクマに挑むことで生活していたわけです。強い勇気と敬意を持ち合わせていたことを感じさせます。

集落の歴史

この消えゆく集落にも長い歴史がありました。

著者の田口洋美さんはいろんな角度からこの村の歴史を理解しようと試みています。

たとえば用水路の形。

人間が生きていく上で、絶対に外せないもの。それが水です。村に家を建てて生きていく上で、都会のようにお金を払えば水道を用意してもらえる土地ではないので、用水路から水を分岐してもらい、使わせてもらう必要があるわけです。

そして当然、分岐の下の方に行けば行くほど水が減ったり、汚れたりするわけです。この用水路の分岐ひとつ見ても、そこに力関係や家が増えていった経緯・歴史を見ることができます。

社会を理解する手がかり

この本は猟に関することはもちろんのこと、集落の歴史や遷移、底に住む人々の関心事など、文化人類学的にも興味深い内容だと思います。

東北の山村に暮らす人々がどう生きているのか理解したい人は良い手がかりになることでしょう。

わたしはマタギに興味を持って、この本に手を伸ばしましたが、かなり幅広い知的欲求を満たしてくれる1冊だと感じました。

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