狩猟ナイフ2:主要なナイフを鋼材の視点から比べてみよう
狩猟ナイフについて勉強するにあたって、避けて通れないのが鋼材の違い。
なんだか小難しい話が多く、完全な理解にはほど遠いのですが、ざっくりと理解したと思うので、まとめてみたいと思います。
鋼材は炭素鋼とステンレスだけではない
包丁やナイフを見比べるとき、漠然と見ていても特徴が見えてきません。
「なんでナイフってこんなに値段がちがうの? 安いのでもいいんでしょ?」
なんて思うことだってあるでしょう。しかし高いナイフには高い理由があり、安いナイフには安い理由があるはずです。そこで、ナイフというものをいくつかの要素に分解して、特徴や優劣といったものを勉強していきたいと思います。
ナイフを構成する要素には次のようなものがあります――
- 柄の材質(木材、シカ角、人工材質、革、、)
- 柄の形状(長い、短い、丸い、平たい、、)
- 刃の材質(ステンレス、炭素鋼、、)
- 刃先の形状(片刃、両刃、、)
- 刃の造形(ドロップポイント、、)
今日は、この中でも刃の材質にだけ注目して、特徴を勉強してみます。
カーボン vs ステンレス
刃物の材質と言えば、まず思い浮かぶのが “カーボン(炭素鋼)” と “ステンレス” の2種類。
錆びないステンレスと、錆びるカーボンと言えば、ステンレスの方が良いと思ってしまいますが、もしそうならすべてのナイフをステンレスで作れば良いことになってしまいます。
ところが、実際のところ「良い刃物」はカーボンで作られているケースが多い。なぜか? そりゃ、メリットがあるからに決まっています。
特徴をざっくりと表にしてみますね。
カーボン | ステンレス | |
錆び | 錆びる | 錆びにくい |
切れ味 | 切れる | カーボンより切れない |
研ぎやすさ | 研ぎやすい | 研ぎにくい |
というわけで、刃物としての性能(切れ味)はカーボンの方が上だけど、ステンレスは錆びないのでメンテナンスが簡単です。
今どき砥石を持っていない家庭も多いでしょうし、家庭用の包丁はステンレスの方が多い印象です。しかし実際にステンレスの包丁を研いでみると分かるのですが、どれだけがんばって研いでも、究極の切れ味にはならないんですね。とはいえ、日常的な料理をする上では、プロの包丁のような切れ味よりも、メンテナンスの簡単さの方が喜ばれるというのも分かります。
さて、カーボンとステンレスについて考えるとき、1つだけ強調しておきたいことがあります。
それは刃物の材質が2種類ではないということ。細かい話は抜きにしますが、鋼材に含まれる不純物の量で特徴が大きく変わるのです。カーボンとステンレスの違いも、結局はクロムの含有量でしかありません(クロムが10.5%以上だとステンレス)。
だから、ステンレスと言っても、「炭素の含有量が多いステンレス」であれば、切れ味が良くなります。もちろんその分だけ錆びやすくもなります。
また、カーボンとひと言で言っても、その種類はかなりあります(ナイフの鋼材の『主な刃物用鋼材』を参照)。
つまり「ステンレスは錆びない」とか「ステンレスは切れない」と言い切ることができないのです。ちょっとだけ錆びやすいけど、切れ味がいいステンレスナイフだとか、比較的錆びにくいカーボンナイフだとか、たくさんの例外があるのです。
そのすべての鋼材について理解するのは大変なので、よく名前の挙がる3本のナイフを挙げつつ、そのナイフで使われている鋼材を見ていきましょう。
バークリバー ブラボー1 A2
こちらはJPSikaHunterさんが気に入っているナイフだったと記憶しています。
鋼材はA2鋼。ほら、ナイフの名称にもA2って書いてありますよね。では、A2鋼とはなんでしょうか?
A2鋼について検索するとバークリバーの紹介ページがたくさんヒットします。さて、A2鋼の特徴ですが――
鋼材はA2工具鋼で刃にねばりがあり、研ぎやすい鋼材です。
A-2鋼材は切れ味抜群ですが、少し錆びに弱いのでしっかり手入れしください。
A2工具鋼ナイフより
とのことです。また別のページで、バークリバーの中でも鋼材ごとの特徴を説明してくださっている人がいましたので、引用させていただきます――
①とにかく頑丈な鋼材がほしい人は3Vに行ってください。Bravoなどには最適の鋼材です。A2より錆びにくいです。今のところ錆びたことはありません。だからと言って錆びないわけではないので過信は禁物です。
②錆びるのが嫌いな人はステンレスに行ってください。Bark RiverではCPM-S35VN,CPM-154CM,154CMがあります。
③切れ味重視の人はA2に行ってください。でも錆びます。ハンドル部分が手汗で錆びてきます。
ざっくり言えば、研ぎやすく、切れ味良く、錆びやすいのがA2鋼ということでしょうか。なるほど〜。
モーラ コンパニオン ヘビーデューティーMG
わたしが使っているナイフです。安くて品質のいいナイフで、コスパという意味では最高なのでは? 先述のバークリバーの1/10くらいの金額ですが、決してナイフとしての性能は1/10ではないと思います。
さて、鋼材ですが、カーボンスチール(炭素鋼)としか書いてありません。公式サイトを見てみると――
Knife blades of high carbon steel can be hardened to HRC 58-60, giving them the best possible sharpness at an affordable price.
MORAKNIVより
ここに出てくるHRC58-60というのは硬度のことです。硬度について分かりやすい説明がありましたのでご紹介します。
高炭素刃物鋼の一般的な硬度はHRc52から58です。 ステンレス刃物鋼の一般的な硬度はHRc56から60です。HRc52未満の硬度は刃物としては柔らかいとされ、HRc60以上の硬度は刃物として、大変硬くもろいと考えられています。
ナイフの鋼材より
これによると、炭素鋼で硬度58-60ということは、「炭素鋼にしては固い」と言えるでしょう。ただし、60以上だと固すぎるとのことなので、「刃物として快適に使える範囲で固い」ということです。
また、ほかの鋼材の硬度を見てみると、60-62くらいのものが散見されるので、それらに比べると柔らかい≒粘りがある、と言えるのかもしれません(確信はありません)。
* 上記「硬度」に関する表記が「強度」になっていました。ご指摘ありがとうございます。
マタギナガサ
こちらはわたしのブログで何度か登場している「憧れのナイフ」です。
こちらの鋼材については、こちらに詳しく書いてありました。
叉鬼山刀の鋼材は、日本刀の素材としても有名な島根県の安来鋼である。それも終戦前までに製造された鋼(はがね)をストックし、叉鬼山刀だけのために使用している。今でも日立金属はヤスキハガネを製造しているが、戦前のヤスキハガネとは全く別ものである。他社がこの鋼を手に入れることは、もはや不可能である。
その鋼に中軟鉄を鍛接している。ヤスキ鋼と中軟鉄を合わせ、何度も熱して打ちたたくことにより不純物を取り除き、純粋な鋼に鍛え上げていく。また、焼入れには、ある植物から抽出したエキスの入った、秘伝の油が使われている。
では、安来鋼(ヤスキハガネ)とはなんでしょうか?
そのルーツは映画『もののけ姫』に登場した、たたら製鉄にまで遡ります。刃物を作る上で、悪影響を与えるとされる不純物を極限まで取り除くことで、粘りがあり、切れ味も良く、欠けにくい鋼材に仕上がっています。
安来鋼とひと言で言っても、その中には白紙・青紙などと呼ばれるいろんなタイプの鋼材があります。それぞれ特徴がありますが、具体的にどの鋼材を使っているかはわかりませんでした。
奥深き鋼材の世界
鋼材について調べてみて分かったことがひとつ。安いナイフ(モーラやオピネルなど)にはカーボンやステンレスとしか表記されていないんですね。バークリバーやマタギナガサのような高価なナイフになると、その鋼材についてもちゃんと自慢げに表記されています。
職人からの「分かる人に買ってほしい」というメッセージを感じるのはわたしだけでしょうか?
また鋼材ごとにまったく違う個性を持っていて、同じカーボンに分類される鋼材でも、錆びやすいもの、錆びにくいもの、固いもの、粘りがあるものなど、刃物としての特徴が違います。
買うナイフを決めたら、ぜひそのナイフの鋼材を調べてみることをオススメします。
あと、一般的に「初心者にはメンテナンスが簡単なステンレスをオススメする」という意見を聞きますが、わたしはそうは思いません。とくに「自分はナイフの初心者だけど、上達したい」と意識している人は、ぜひカーボンも選択肢に入れてあげてください。で、ガシガシ使って、ガシガシ研いで、メンテナンスの練習をした方がいいと思います。
また別の日に柄の違いや刃の形状について勉強してみたいと思います。チャオ!
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