北極冒険家 荻田泰永氏の極地専用ジャケットに学ぶ!
北極冒険家の荻田泰永氏が北極冒険用に製作したオリジナルジャケットをお借りし、実際に使ってみる機会をいただきました。
荻田泰永氏についてはこちらの書籍をオススメします。
また、通常、このように商品提供を受けて紹介する場合「レビュー」という体裁をとるのですが、今回はそういうものではありません。「このジャケットから学ぼう」というスタンスです。その理由も少しお話します。
極地専用ジャケット!
ぜひ制作に関わる熱いメッセージと、詳細な仕様については公式サイトをご覧ください。
ハッキリしているのは、これは極地専用ジャケットであるということです。北極という特殊な環境において最適なウェアですので、それをレビューできるのは、極地経験がある人だけじゃないかな。と思うんです。
柳刃包丁でリンゴの皮むきをして「うーん使いづらい包丁ですね」なんてレビューはありえないですよね。プロじゃないとしても、せめて刺身を切ってみないことにはレビューはできません。個人的にはアマチュアのレビューにはそれなりの価値があると思っていますが、あまりに噛み合わない用途でのレビューはやっぱり良くないと思うんです。
だからぼくにこのジャケットをレビューする資格はありません。
だから、今回はこの極地専用のジャケットから学べることを吸い取っていこうというのが主な趣旨です。そのうえで、最後にぼくの環境で使ってみた感想は書いてみたいと思います。これは柳刃包丁でリンゴの皮むきをしたようなものなので、レビューではなく感想。その点をご了承くださいね。
生地ベンタイルがおもしろい
アウトドア系のアウターとしてはゴアテックスがど定番です。しかし、荻田泰永氏の言葉を見ると、どうやら極地においてはそれが成立しないというのです。
その理由は2点——
- 寒すぎて雨は降らないため、防水不要。
- 寒すぎて身体から出る水蒸気がジャケットの内側で凍ってしまい、その後は透湿性能は無効化される
なるほど。納得です。そこで荻田泰永氏はベンタイルというコットン(綿)を高密度で織った生地を選びました。
折り方は特殊とはいえ、防水ではありませんから、雨が降れば普通に濡れます。しかし、極地では雨は降らず、雪も寒すぎてジャケット上で溶けないので、これで良いということらしいのです。むしろ普通に綿なので、通気性も良く、身体から出る水蒸気は外部に出ていく、と。
また、よくある誤解として極地用ジャケットというと「めちゃくちゃ暖かい」と思うかもしれませんが、このウェア自体は薄手のジャケットです。上記の写真を見てもらえば分かる通り、とても薄く、むしろあまり暖かくないです。寒いなら中に着込む必要があります。
これも「アウター」の役割を考えれば、当然です。アウターは風・雪・雨などの外部環境から身体を守ることが大きな目的です。歩いていて「暑くなってきたから脱ごう」と脱ぐわけにはいかない場面が多々あるわけです。そういう場合は内側に着ているものを脱げばいいわけですね。このあたりは日本の山でも同じことだと思います。
この生地がゆえに、このジャケットが極地用であり、国内の登山には適さないともいわれています。
道具とは、まさに「適材適所」です。極地で優秀だから日本の雪山でも問題ない、ということではありません。極地と日本では環境が全く違います。
このジャケットを着て、日本の雪山は絶対に登らないでください。低体温症で死ぬかもしれません。日本の気温と湿度では、ベンタイルがベタベタに濡れたまま、決して乾かないでしょう。
Ogita Adventure Walk Jacket(オリジナルジャケット)
寒さと湿度の違いで、極地で発揮できる性能を、国内の雪山では発揮できないだろう、というわけです。
フードとファーがすごい(語彙力
このウェアで最初に感動したのはフードの圧倒的性能でした。とりあえず、こちらのツイートを見てください。
北極冒険家である荻田泰永さんが開発した局地探検用のアウターをお借りしてます。
いろいろ語りたいことはありますが、暴風警報が出た時に試着して、ファーとフードの効果に感動。ファーって飾りかと思ってましたが、横からの風の巻き込みなどがかなり軽減されて、顔に風が当たらないの!すごい。 pic.twitter.com/mK2sKN4r7O
— やまくじ『山のクジラを獲りたくて』 (@yamakuji_jp) January 22, 2022
わたしが住んでいるのは北海道最北の町、稚内。「風の町」と言われるほど風が強い町です。本当に強いんだから。笑
とくに冬期の風は暴力的で、連日、目も開けていられないほどの強風が吹いたりします。
そこで上記の動画ですよ。
恥ずかしいんですが、動画中のぼくの目を見てください。ビュービュー風が吹いているけど、ちゃんと開けていられるでしょ。これ、フードがないと風と、それに乗って吹き込む雪とで目なんて開けていられないんですから。
びっっっっくりするくらい、風の巻き込みを軽減します。
このフードの形状と、ファーの付け方にコツがあるらしく、一般に市販されているファー付きのフードと性能は異次元。正直に言えば、この手のファーって飾りだと思っていましたが、付け方さえちゃんとしていたら、強力な性能を発揮するんですね。
ちなみに、上記の動画は商品が届いてすぐだったので、まだ使いこなせていませんが、フードを絞り、もう少し丁寧に被ると、マジで顔面シェルターって感じで、さらに快適です。すごいわこれ。
容赦ないベンチレーション
このウェアで「ああ、これは国内のウェアにも取り入れて欲しい」と感激したのが、大盤振る舞いなベンチレーションですね。
上記の写真の袖口から、脇の下を通って、横っ腹の辺りまで伸びる長いジッパー。これすべて開きます。
いま、着ている服で考えてみてください。服の側面がほぼ全部開きます。ダブルジッパーになっているので、部分的に開けたり、閉めたりも自由自在。脇の下だけちょっと開けたり、腹の方だけ開けたり……。これはすごい。
わかりやすい使用例があれば良かったんですが……、たとえばこれなんていかがでしょうか? 下の写真の身体側面が開いているのがわかりますか?
これがすごくいいんです。ぼくは狩猟なので、雪山で高い山に登ることはありません。あくまで平野だったり、せいぜい低山の尾根登りくらいのもの。こういう活動だと「行動中はひたすら暑くて、立ち止まると冷える」というパターンになりがちです。
だから動いているときはガバッと開いてしまえば「アウターを着てない」って思うレベルでスースーと通気しますし、冷える場面では閉めればいい。この自由度に感動しました。
ベンチレーションはあればあるほどいい。そう言わざるを得ません。
橇を引く前提のジッパー
また、身体の左右側面後方にはポケットみたいなジッパーがついています。
これはポケットではなく、ただ開くだけです。ベンチレーションのような感じに見えますが、そうではなく、これは橇の引き紐を通すためのジッパーで、これもよく考えられています。
山をやる人は経験があると思いますが、たとえゴアテックスのような透湿素材のウェアでも、背中はザックに接し、肩や胸は肩ひもに、腰回りはウェストベルトに締め付けられて、透湿性能を発揮できず、汗でベタベタになることありませんか? じつはウェアの性能というのは、ザックなんかで締め付けることで低下すると思うんです。ザックを背負うと、実にジャケット性能の半分くらいは殺されるのでは? と思うほど。
極地の場合は、ザックを背負うでのはなく橇を引いて行動します。ザックよりはマシとはいえ、思い橇を引くためには腰回りにしっかりしたベルト(ハーネス)をつけることになり、その部分の通気性が一気に低下します。さらに想像して欲しいのですが、前述のベンチレーションも部分的に殺されるし、腹回りのポケットも使えなくなります。
これを解決するために、橇を引くためのハーネスはこのジャケットの下に着用し、その紐を上記写真のジッパーから通して外に出す、というわけです。
これにより、ジャケットは橇の引き紐に締め付けられることなく、アウターとしての性能を存分に発揮できるということです。
なるほどな〜。
フェイルセーフとしてのループ
じつは極地ジャケットにおけるジッパーは超重要な役割を持っています。ジッパーが壊れると、身体の前面を閉じることができず、正面から吹き付ける風を遮ることができず、圧倒的に不利な状況に陥ります。
そこで、ジッパーに沿うように小さなループがたくさんついています。
もしもジッパーが壊れたら、このループに紐を通してしまえば、前面を閉じることができるというわけです。行動中に壊れたら、当面はこれでしのぎつつ、キャンプ地でゆっくり直すこともできるかもしれません。
極地という、気楽に帰れない環境を生き抜くための工夫ですね。
実際に使ってみた感想
ぼくは狩猟でこのウェアを使いました。
状況は以下の通り——
- 気温は-3〜-15度程度
- 低地(というか、平野の雪原がほとんどで、たまにちょっとした尾根を登る程度)
- 日帰り
- スキーで行動
- ザックを背負うこともあれば、ソリを引くこともあった
こんな使用状況で、ぼくの感想を書いてみたいと思います。
(1)気温-5度以下だと快適
感覚的ですが、だいたいマイナス5度より暖かいと、やはり身体についた雪が体温で溶けて、丸一日を終える頃にはジワッと濡れます。陽射しなどにもよるかもしれません。
これがマイナス10度以下だと、やはり溶けることはあまりなく、ベンタイルの強みが活かされるイメージです。
北海道の低地だと、1〜2月はマイナス10度くらいは普通ですし、北海道内陸地に行けばマイナス20度くらいまで平気で落ちます。
一方で3月を過ぎると暖かい日(マイナス5度とか)が出てきて、そういうときだとジワッと濡れるようになります。日帰りなら我慢できるレベルですが、何日も泊まりながら過ごすならストレスに感じることもあるでしょう。
(2)ベンチレーション最高
スキーで雪原をぐんぐん行動していると、かなり汗をかきます。身体を冷やし、汗を外に逃がす上で、横がガバッと開くベンチレーションは最強だと思いました。
このジャケットを経験したせいで、ベンチレーションがない服は着たくないと思うレベルです。
(3)綿は音が抑えられて狩猟に適してる
一般的な登山ウェアはシャカシャカ音がする素材が多く、音に気を使う狩猟においてはちょっと苦手です。
その点、このウェアは綿なので、衣擦れ音が少なくてストレスが少ないです。
(4)色も狩猟に合うね
ちょっとしたことかもしれませんが、狩猟では目立つ色を着ることを推奨されていますが、その点も偶然にもバッチリ。
オレンジ——ではありませんが、目立つ赤色で、その点も狩猟には合うように感じます。
(5)感動のファーだけど、狩猟には使わないかな
ファーの性能は感動ものですが、それだけの強風だと猟に出るのも大変なので、活躍する場面は多くありませんでした。
また完全にフードを閉じてしまうと視界が狭いので、獲物を探すのも大変です。
ぼくは早朝から昼過ぎくらいまで猟に出ることが多いのですが、夕方までがんばる人は薄暗く寒い時間帯に帰ることになるので、そんなときは重宝するかもしれません。
個人的には感動のウェアでした
じつは販売されていないセットのズボンもお借りしていましたが、これがジャケット同様の生地で、すごくいいんですよ。
シャカシャカせず、ベンチレーションも広くて、極めて快適。
一年の中で1〜2月に使う分には超快適だと感じました。3月になると「日による」って感じ。
大変、おもしろく感動的な経験をさせてもらいました。
荻田泰永さん、ありがとうございます。
また、同じベンタイルを使用したダウンジャケットも制作販売しているそうです。これもおもしろそう。興味がある人は公式サイトをご覧になってください。
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