単独猟日記:忍び猟の休憩でタープを張るという実験をしつつ、メスジカを獲る

最終更新日

同じ猟に行っても、その時々でテーマが違ったりする。いつも同じように取り組んでいるとマンネリ化するし、獲れるかどうかだけで一喜一憂してしまいそうな気がするから、なにか別のモチベーションなり実験なりを織り込んでみたりする。

新しい道具を試すこともあるし、これまで狩猟に持ち出したことがない道具を使ってみることもある。獲物へのアプローチの仕方を変えてみることもあるし、解体の仕方を変えてみることもある。着る服を変えてみたり、靴を買えてみたり、帽子を変えてみたり……。

この日の実験は「狩猟中にタープを張る」というもの。だからなんだ、って思うかもしれないけど、自分としてはわりと大事な展望に繋がっていくイメージを持っているので、そのお話も。

シカがいないことを確認する

おしるこは最高の休憩のお供。でもこの手のフリーズドライは物足りないので、茹で小豆と餅を持って行って作るのがオススメ。記事を書いている最近では、そうしている。もちは家で一口大に切っておけば、煮るのも早い。

この日、午前中いっぱいをかけて、とある山をザーッと歩いた。

この山で獲ることは大きな目的ではなかった。じつはこのあたりは最近になってシカの痕跡が薄くなったように感じていて、本当にそうだろうか? と確認するために、広めにグルリと歩いて、出入りしている足跡を探すという目的があった。

いわゆる巻狩で言う “見切り” というやつだ。

書籍『山のクジラを獲りたくて―単独忍び猟記』にも書いたけど、獲物がいないなら、いないなりに、「いないことをちゃんと確認する」っていうのは、大事なコトだと思ってる。

とくに「あるときまでいたけど、最近いなくなった」みたいな情報は翌年以降に活きてくる。

1回山に行って「いない気がするから、今後は別の場所に行こう」ってのは、一見合理的な判断だけど、その日はたまたまいなかったのか、あるいは何度行ってもいないのか? それが分からないと、生きた情報になりにくい。

というわけで、この日はグルリと歩いて、動きがとても少ないということを確認した。1頭だけいたので、ゼロではないが、猟期当初(10月)は毎回いるようなスポットだったので、シカの付き場が変わったのかもしれない(ぼくが何度も行ったから、散らしてしまった可能性もある)。

 

タープを張って休んでみる

昔からタープは持っているのだけど、狩猟に持ち出したことはない。ちなみにぼくのはアライテントのビバークタープM。長方形のベーシックなタープだと思う。

ちょっと風が強かったので、焚火台の風よけ的な意味でも役に立ったが、それ以上に「ごろんと横になれる」ってのが最高に気持ちよかった。

横になって、焚火を眺めるのもかなり極楽。

ごろんと横になると、わりと煙もあたらないし、想像以上に体が休まる。食事の最中に、突然小雨が降り始めたのだけど、それも気にせずのんびり食べる事ができたので、ただの実験的なタープ遊びだったものの、結果的には「持ってきて良かった」となった。

 

何故タープか?

タープを持っていく実験ってなんだろう。

実験も何も、ただ持って行って、張っただけなんだから、誰にでもできるし、できることは目に見えている。

「できるかどうか」が問題ではなかった。「タープなんて使うのが億劫じゃないだろうか?」という精神面での実験だった。ぼくは狩猟では、ほとんど休憩もせず、たまに休憩をしても一刻も早く休憩を終わらせて行動したくなるタイプだ。

休みベタで、放っておけばいつまでも行動したくなるタイプ。せっかちなんだと思う。

そんなぼくがタープを張ることをどのくらい億劫に思うか? また荷物が増えることをどう思うか? というところを試してみたかった。

 

実際のところ、狩猟中の休憩にタープなんていらない。

わかっている。

じつは他の道具選びにも言えることなんだけど、ある心に抱いている将来への展望があってやったことだ。

じつは「野営しながらの狩猟」というスタイルを目指している。ただこれは「野営&キャンプを楽しみます」という話ではない。それは最初からキャンプを目的に行っているだけ。それはそれで楽しいけど、やりたいことはそれではなくて、「足跡を追っていたら日が暮れそうなので、ここでビバークして、明日も追うぞ」という事態を想定している。

言うまでもなく、シカ狙いならこんなことする必要はない。そんなことしなくても獲れるから。ただ、ヒグマはそうはいかない(と思っているけどどうだろう?)。

羆撃ち (小学館文庫)』の久保俊治氏も羆の足跡を追ってビバークすることがあるという。

現時点ではうちも子どもが小さく、あまり泊まりがけで出掛けたくないと思っている。だから今日明日にでもやろうという話ではない。何年もして、「そのときがきたら」という話だ。

たとえば焚火台を使って、狩猟中に焚火をしているのも、そういうビバークしながらの行動をイメージしていたりする。普段からやっているからこそ、いざというときにできることだと思っているから。

(条件がいいときの焚火なんてだれでもできるけど、条件が悪いときはやっぱりコツがある)

 

そんなわけで「タープを持っていればビバークしやすいかな?」なんて思いつきで、試しに持ちだしてみることにした……というわけ。

まぁ、こうして文章にするとちょっと大袈裟に聞こえるけど、“そういう楽しみ方をしている” ってだけのお話。

サバゲーを好きな人が「○○国の軍隊の装備を揃える楽しみ」に近いかもしれない。「ビバークもできるスタイルで狩猟に取り組む楽しみ」ってやつ。

 

その後、獲物にも恵まれ……

小雨が収まるのを待って、行動再開。

獲物がいないことを確認したこの山を出て、道を挟んだ反対側の山域へ。近いんだけど、地形的にはずいぶん性質の違うエリア。さっきの場所はグイグイ登って降りる入り組んだ地形。こちらは開けた湿地と、それを囲むゆるい山岳エリアという感じかな。

歩き始めて30分で、新しめの足跡を発見。追跡すること5分ほどであっという間に発見。小さな沢の向こうで、こちらを見て立っていた。

捕獲して、解体して、車に戻り、この日は終了。

 

タープを持ちだした感想

で、「狩猟にタープを持っていく実験」で思ったことは、タープも便利ね、ってこと。

休憩の品質が倍くらいになった気がする。それだけ普段の休憩は「意外と休んでいない」のかもしれない。今回は手抜きの設営だったけど、もうちょっとちゃんと閉じた形にタープを張って、焚火で暖まるスタイルにすれば、もう少し寒くてもいける気がする。

——と、このときは思っていたが、しばらくあとになって氷点下10度を下回ったとき北海道厳冬期のビバークの怖さを実感した。この日は0度よりは上。

雑誌『狩猟生活』にある久保俊治氏の道具紹介で、ビバークアイテムとしてツェルトを使用していると書いてあった。ただし設営せずに包まって寝ているとのこと。このあたりの経験値がないと、厳冬期のビバークはままならない……。

まだまだ修行は続く。


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。2022年からはアイヌ犬のイチを連れて一銃一狗に挑戦します。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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