書評『漂泊の牙』オオカミのこと知りたくなる小説

  • Pocket

「ある日、野犬に人が襲われます。それがオオカミだとうわさが立ち、調査に向かう動物学者。ニホンオオカミは絶滅したはず。しかし目撃談まで出てくる。犯人は本当にオオカミなのか? それともただの野犬なのか?」

今日ご紹介するのは動物ミステリー小説『漂泊の牙』です。著者はマタギやクマなどを題材にした小説作品を書いてきた熊谷達也氏。そして表紙。動物好き、狩猟好きならこれを見ただけでワクワクする人もいるのではないでしょうか?

この小説は狩猟小説ではありませんが、それでも狩猟などに興味がある人なら楽しめるエンターテインメント小説だと思います。

『漂泊の牙』

ニホンオオカミは絶滅している。

一応、これが一般的な知識です。ニホンオオカミの最後の確かな生存確認は1905年。いまでも標本が残っています。その後1910年に撲殺されたイヌ科の動物がニホンオオカミだったと言われていますが、標本が消失し、学術的には未確認とされています。

環境省では「過去50年間生存の確認がなされない場合、その種は絶滅した」と判断するため、この基準に則り、ニホンオオカミは絶滅している、といわれているわけです。

でも、本当に絶滅しているのでしょうか?

人里離れた山奥に、わずかな数だけで生き残っている可能性はないのでしょうか? いないことは証明できない。だからいるかもしれない。

この仮定の上に立っている物語が、今日ご紹介する熊谷達也氏の小説『漂泊の牙』です。

あらすじ

ネタバレはしたくないので、大雑把なあらすじだけご紹介します。

舞台は東北の山奥。ある老人が「オオカミが出た」と発言。勘違いだろうと誰もが一笑に付すのですが、少しして人が動物に食い殺される事件が発生。どうやら野犬の仕業らしいことがわかりますが、老人の発言と重なり「もしやオオカミでは?!」と地域がパニックを起こします。
そこで動物学者の城島が犯人とも言える「オオカミ」の追跡に乗り出すのですが……。

とまぁ、そんな話です。ひと言でまとめるなら「動物ミステリー小説」でしょう。

まず物語自体がおもしろい。とくに狩猟や動物に興味がある人ならなおさら。追っている動物は野犬なのか、オオカミなのか?

わたしとしてはこのテーマだけでワクワクが止まりませんでした。だって小説としては「犯人はオオカミでした、絶滅してませんでした」でも「野犬でした」でもつまらない。「オオカミが実は絶滅してませんでした」じゃ、もはやSFです。「普通に野犬でした」じゃ、もはや小説として成立しないでしょう。

わたしは小説に大どんでん返しなどは求めないタイプです。「どんでん返し至高主義」とも言える、最近の流れには辟易しています。

それでもこの作品の最後には感心してしまいました。「大どんでん返し」とまでは言いませんが、スパッと鋭い背負い投げくらいの結末が待っています。物語としておもしろいのは当然として、嬉しいのはその “深み” です。「ああ、それあるかも」と小説的リアリティを感じさせつつ、「そういう歴史があったんだ」という知的好奇心を満たす喜びもあります。

オオカミに興味を持たされた

熊谷達也氏の小説はこれまでも数冊読んできましたが、どれも小説としておもしろいだけではなく、読んだあとに「もっとこの分野のことを知りたい!」と思わせてくれる作品ばかりです。

今回の作品も、読み終わったあとに「もっとオオカミのことが知りたい」と感じました。

あれだけ存在感のあった動物です。いろんな形で日本人の文化の中に溶け込んでいたはず。そういうオオカミ文化を覗いてみたいと思いました。

おもしろいと思ったらこちらをクリックしていただけると、ランキングが上がります。どうかお願いします。
ブログ村へ
にほんブログ村 アウトドアブログ 狩猟・ハンティングへ


  • Pocket

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*