書評 『けもの道の歩き方』 現代猟師らしいコラム集
今日ご紹介する『けもの道の歩き方』は日本で猟関連の情報収集をしている人ならば、きっとご存じの方も多い千松信也さんの著作です。
彼の文章からは「現代の猟」という行為に真面目に向き合うひたむきさと、正直さを感じます。
現代の猟は悩ましい
いえね、きっと昔もそうだっただろうと思うんですが、猟という行為はどうしても悩み多き行為なんだろうと思います(自分はまだ猟を始めていないので、言い切れないのですが……)。
「猟」の話になれば、いろんな議論が起きます。
「スーパーで安く肉が買えるのに、なぜ狩る必要がある?」
「そもそも、人間は肉を食わずとも生きていける!」
「狩りはいい。だけど、子どもの獣を狩るのは倫理に反する」
「食べるために狩るのはいい。だけど駆除目的で狩る人の神経が分からない」
他にも挙げればキリがありません。猟をやっている人、やりたいと思っている人、興味を持っていろんな情報に接している人は、こういった議論に対してなんらかの答えを持っているかもしれません。あるいは持っていないけど、ふと悶々と考えてしまう、なんて人もいるでしょう。
『けもの道の歩き方』の著者、千松信也さんはこういった議論と向き合い、発信していらっしゃる、現代猟師の代弁者のように、わたしには見えます。
考えるきっかけをくれるコラム集
『けもの道の歩き方』はこうした現代の猟を取り巻く議論に対する答えを提示する本ではありません。あの手この手で、そう言った議論の側面を見せてくれる本です。
たとえば最初のコラム《見つめるシカ》は、友人から「畑のネットにシカが絡んでる。どうしたらいい?」という相談から始まります。著者は「逃がすか殺して食べるかの2択」と答え、友人は一端電話を切って考えるのです。
しばらくして「食べてみようと思う」と友人が決意し、著者が現地に行き、シカを殺し、アドバイスしながら友人に捌かせます。
あれこれあったあと、友人が言います。
「肉を食べるってほんとに大変なんだと身にしみて分かった。いろんな感情が湧いてきてちょっと整理出来てないけど、このお肉は責任持って食べさせてもらうわ」
ネットに絡んだシカを逃がすべきか、食べるべきか、そこに答えはないけど、食べる決意した友人は深い葛藤の末、おそらく何かを見たんだろうと思います。読者であるわたしも、これを見て考える。
そうやって考えながら読むコラム集です。
猟を始める前に読めて良かった
この本を、わたしは猟を始める前に読みました。そのことを凄く嬉しく思っています。
猟を初めて数年したら、改めて読んでみたいと思います。
そのときはまたちょっと違った目線で読めるような気がするから。
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