書評 『マタギ——森と狩人の記録』 時代の経過を記録する本

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本日ご紹介する『マタギ——森と狩人の記録(田口洋美)』は、マタギというひとつの歴史を刻むすばらしい資料だと感じました。これからマタギについて勉強しようとする人のための本とは言いがたいですが、これまでいろいろ読んできた人ならきっとおもしろく読める1冊だと思います。

資料!

この本は物語とかドキュメンタリーとか解説書というジャンルではなくて、”資料” と呼ぶのが1番ふさわしいような気がします。

というのは最初から最後まで、著者が現地で見聞きしたことをそのまま書いた「聞き書き」スタイルをとっているからです。”インタビュー集” と言えば分かりやすいかもしれません。

徹底的に現地で聞いた言葉をそのまま書きます。たとえば――

――鈴木松治さんの話――
(中略)
「山ではなヒラでも何でも “ミズキ” っていう木は使ってならねぇんだ。そうこの辺りでは言ってるすな。ミズキっていう木は山の神様の木だから使うもんではねぇっていわれでるんだな。ミズキのほかにはそんなごど言わねぇけどもな。ミズキも小正月のときに繭玉つけて飾るのに使うがらな。まぁ使ってならねぇっていうのは山の関係だけだすべ」

という具合。この文章を「マタギは山でミズキの木を使わない。神様の木だと言われているからだ。しかし里で使う事があることから、山特有の考え方のようだ」とまとめることだってできたでしょう。しかし著者は徹底的に「言葉」にこだわりました。

話し手が曖昧に話せばそのまま曖昧に書き、強い口調で話せばその強い口調のまま記す。話がそれることもあるけど、それだって(たぶんある程度の軌道修正はしつつ)そのまま記しているようです。

だから「マタギってなに?」という人が読むと、とりとめがなく、体系的でもなく、とっつきにくいかもしれません。しかしある程度マタギについての基礎知識がある人(数冊くらいはマタギ系の本を読んだことがあるなど)ならば、自分の知っていることの隙間を埋めてくれる情報がたくさんあることに気が付くと思います。

とことん現実

しつこく書いているように、とにかくこの本は聞き書きであり、資料として読むとおもしろいです。とことん正直で、聞かれた人が「これは教えられねぇ」と答えることさえあります。たとえばこんな箇所がありました。

まぁ、こういうこどはあまりしゃべりたくねぇけどもしゃ。いろいろな人方がこのマタギ言葉というものを知りたがって調べて本さ書いてるどもしゃ。やっぱり、違うのがあるすものな。マタギ方はしょうがなしに教えたと思うけどもしゃ。やっぱり本当のことはしゃべってねぇすな。

とまぁ、「過去のマタギもウソ教えてるみたいだ」なんて書かれていることもあるんです。

それも含めて現実、とわたしはなんだか感心してしまったんです。

「マタギ言葉は里で使ってはならない」という掟もあるので、信心深いマタギであれば、ちょっとインタビューに来た人にすべてを教えるとは思えないんですね。だから、この「本当のことはしゃべってねぇ」ということが凄いリアリティを持っていると思うんです。

この本の「とことん現実を見せる」というやりかたが、わたしにはすごくおもしろく思えました。

マタギについてより深く勉強したい人のよき資料になるだろうと思います。


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狩猟やってます。ひとりで歩き獲物を追う単独忍び猟が好き。狩猟系ブログ《山のクジラを獲りたくて》運営。狩猟系の本を集めるのが趣味。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』に寄稿し始めました。 ヤマノクジラショップ始めました:https://yamanokujira.theshop.jp

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