狩猟で1番大切なことは『蝿の王』に書いてある

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わたしの大好きな小説の1つに『蝿の王』がある。ウイリアム・ゴールディングによる名作だ。

20代の頃に読んで感激し、それから何度か読み直しているが、毎回「やっぱすごいや」と感激している。そんな『蝿の王』を今また読み直している。そして狩猟でもっとも大切なことが書いてあることに気が付いた。

雑にストーリーをまとめると、無人島に流れ着いた子どもたちのサバイバル小説、ということになる。ネタバレになるので触れないが、タイトルの ”蠅の王” の意味が分かったとき、その異様さと、象徴としてのうまさにため息が出るほど感動した。

以下も、前半部分のネタバレが前提になるので、ネタバレ無しで読みたい人は、ぜひここで止めて原作を読んでほしい。

前半~中盤にかけて2つの大きなプロットがある。1つが大人に見つけてもらう為に、焚火を維持することだ。狼煙を上げ、船が通りがかったら見つけて貰いたいという、至極もっともな戦略だ。リーダーがその重要性を説き、火の番を決めて、昼夜問わず火をたき続けるのだが、いかんせん子どもしかいないので、他のことに気をとられたりして、火を途絶えさせてしまう。そのたびに「しっかりしろ」ッてな具合に、リーダーが狼煙の重要性を訴える。

もう1つの大きなプロットが豚を捕ることにある。漂着した子どもたちの一部が狩猟隊を名乗り、島にいる豚を捕獲しようと躍起になる。いざ見つけてナイフで刺そうとしても、躊躇してしまったり、逃げられたりで苦労する。

ある日、遠くの海に大型船が通りがかる。リーダーが自分たちの狼煙を確認すると、火も煙もない。おかしい、と拠点に戻ると火は消えており、火の番もいない。そして大型船は姿を消してしまう。

そんなとき、遠くから隊列を組んで近づいてくる人たちがいた。狩猟隊の面々である。狩猟隊は長い棒に豚を下げていた。

喉を裂かれた豚は、頭をだらりと垂れ、地面に何かを探しているように見える。ようやく歌の言葉が、炭と灰だけになった焚き火の跡までのぼってきた。

「豚殺せ。喉を切れ。血を流せ」

(中略)

「見ろよ! 豚を殺したぞ!──そっと近づいて──包囲して──」  狩猟隊が口々に叫ぶ。

ウィリアム ゴールディング. 蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫) (p. 97). (Function). Kindle Edition.

火の番をしていたのは狩猟隊の一員で、火を放り出して豚を捕りに行ってしまったのだった。そして見事に豚を仕留め、揚々と歌いながら戻ってきた、というわけだ。火を守りたいリーダーのラルフと、豚に熱くなっている狩猟隊隊長のジャックのやりとりが続く――

ラルフが口をひらいた。

「きみたち火を消しただろう」

ジャックは、何をつまらないことをいってるんだと軽く苛ついたが、すぐに幸福感で不快感を吹き飛ばしてしまった。

「火ならまた熾せばいい。きみもいっしょに来ればよかったよ、ラルフ。愉しかったぞ。双子なんかはね飛ばされて──」

「豚にあたってさ──」

「──ひっくり返っちゃった──」

「ぼくは豚の喉を切ったんだぞ」ジャックは誇らしげにいったが、いいながら顔をひくつかせた。「きみのナイフをかしてくれないか、ラルフ。柄に刻み目をつけたいんだ」

少年たちはしゃべりながら踊った。双子はまだ微笑みつづけている。

「血がびゅうっと出たよ」ジャックは身震いをしながら笑った。「きみにも見せたかったな!」 「これから毎日狩りにいくぞ──」

ラルフはまたざらつく声でいった。体はぴくりとも動かさなかった。

「きみたち火を消しただろう」

ウィリアム ゴールディング. 蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫) (pp. 98-99). (Function). Kindle Edition.

狩猟に熱くなり、周りが見えなくなっているジャックと、そもそも助かるためには火を焚き続けなければならないリーダーのラルフのぶつかり合いとなる。火が消えていたのは1~2時間でしかない。それで貴重な食料としての豚が手に入った、と恍惚と訴えるジャックと、その1~2時間の間に実際に姿を見せ、去って行った大型船を目の当たりにしたラルフの落胆が交錯する場面だ。

ここに狩猟における現実的な教訓がある。

勇気と、技術と、執念が結実したものこそ、狩猟における獲物であるわけで、それを誰しもが称えてくれることを当然だと思っている。しかし共同生活を営む家族からすれば、必ずしも同じ興奮と価値観を分かち合えるわけではない。

「それより、○○のほうが大事なのに」

という家族の意見もあるだろう。獲物を手にして「おれは獲ったぞ!!」と拳を突き上げた鉄砲撃ちと、家で迎える家族とでは大きな温度差があるものだ。それに気が付かず、いつまでも拳を上げ続けていれば「いいから、家のことをやってよ」と思われてしまうかもしれない。

狩猟はのめり込みやすく、熱くなりやすく、興奮に繋がりやすい行為である。

だからこそ、それを待ってくれている家族の冷静さのことも理解しなくてはならない。

『蝿の王』の、このラルフとジャックの交錯を見たとき、「ああ、これ日本中の猟師の家庭で起きているぞ」と恐くなった。

狩猟におけるもっとも大事なものは、家族の理解である。


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武重謙@やまくじ

ひとり山でヒグマを追うハンター。 狩猟系作家。宿泊施設経営。狩猟ブログ『山のクジラを獲りたくて』。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』などに寄稿。 著書『山のクジラを獲りたくて』(山と渓谷社) http://amzn.to/2NYn9Sv

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