《書評》『星の降る森で』 静かに、力強く燃える、よくできた熾火のような短編小説集

最終更新日

今日ご紹介するのは本山賢司氏の『星の降る森で』という短編小説集です。

これはアウトドアをやる人なら刺さる人が多いんじゃないかな〜。古い本なので、まだ読んでいない人も多いはず。

『星の降る森で』

焚火を絡めた短編小説集です。恥ずかしながら本山賢司氏を存じ上げず、ただただ「日本初の焚火小説集」という宣伝文句に惹かれて購入した本でした。

小説というものには読み方があります。

細かい単語を1語ずつ読み取ることよりも、スピード感重視でガーッと読んだ方がおもしろい小説もあれば、一言一句噛みしめながら読んだ方がおもしろい小説もあると思っています。1つの作品の中にもテンポ良く読むべき場面と、グッと抑えてじっくり読むべき場面があったりもします。書き手は語句の選び方、修飾語の付け方、セリフの割合などでそういった読み手のスピード感をコントロールするわけですし、読み手としては、書き手のそういった意図に流されるように楽しむのがおもしろいわけです。

さて、実を言うと、わたしはこの作品集全体に流れるテンポ感があまりに分からずに読んでいました。そのせいで1作目、2作目あたりは、どうもリズムが合わず、入ってこないという印象でした。実を言うと「読むのやめようかな〜」とチラリと浮かんだほどです。

 

『遠い湿原の記憶』

この印象をガラリと変えてくれたのが、3作目の『遠い湿原の記憶』でした。

大変に静かで、起伏がないような、悪く言えばちょっとつかみ所がない作家さんだな〜と思っていました。この『遠い湿原の記憶』もまさにそんな印象で読んでいましたが、途中でギアが噛み合ったような心地よい感触があり、そこから最後の作品まで一気に読んでしまいました。一度ギアが噛み合うと、どの作品も味わい深く、良質で、示唆に富み、それでいて情熱的で熱い。

「名作じゃーん」

と語彙力ゼロで人に伝えたくなる作品集なんですよ。本当。

 

さて、たとえば『遠い湿原の記憶』がどんな作品かと言えば——、

潔という12歳の少年がいた。潔は体力もないし、ちょっとトロい少年で「あ呆のように口を開けてないで、ちゃんと閉じろ」と注意されちゃうような少年でした。そんな彼が、秘密基地のようにしていた湿原を歩いていたところ、巨大な魚を見つけ、強烈に惹かれ、人から糸をもらったり、針を拾ったりして、道具を揃えて釣りに行く。同級生が怪しんで尾行する我、湿原の底なし沼のような場所に落ちて、潔は助けてやる。そんな折り、例の巨大魚は針にかかるが、果たして釣り上げることはできるのか……。

ってな感じでしょうか。あらすじ自体のおもしろさというよりも、ある種、絵画的なおもしろさというか、漂う空気感が大変に良いのです。

あまり作品をほかの作家でたとえるのは上品ではないと思いますが、作品集全体に漂うややグロテスクに描く精神感は大江健三郎的、自然の無慈悲な力強さはジャックロンドン的、自然に対峙する人間の描き方にヘミングウェー的な魅力を感じました。

そのあたりの作家が好きなら、読む価値あります。

 

では。

 

 


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武重謙@やまくじ

ひとり山でヒグマを追うハンター。 狩猟系作家。宿泊施設経営。狩猟ブログ『山のクジラを獲りたくて』。雑誌『狩猟生活』『ガンズ&シューティング』などに寄稿。 著書『山のクジラを獲りたくて』(山と渓谷社) http://amzn.to/2NYn9Sv

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