マタギナガサの鞘ってものすごく合理的だってことに気付いたこと
近い将来買いたいと思っているマタギナガサですが、たまに「鞘には欠点がある」と聞きします。
しかしよくよく考えてみると、それは弱点じゃなくて、むしろ強みなんじゃないか、と気付きました。
マタギナガサ
まず始めに言っておきますが、わたし、マタギナガサを持っていません。買うつもりでいまして、できれば阿仁町に行って直接購入したいと思っています。
わたしにとっては憧れのナイフで、大好きな刃物。だからよくマタギナガサのことを妄想します。
木鞘の弱点
このマタギナガサというのは上の商品写真を見れば分かる通り、木の鞘が付いてきます。
で、この木鞘には2つの弱点があると聞きます。
- 歩くとカタカタと音がする(狩猟の際に獲物が逃げる)
- ナイフが抜けてしまう(7寸以上の大きさだと革のベルトが付いて、刃が抜けないようになっているようですが、6寸以下は逆さにすると抜ける構造)
たしかにこの2つは弱点と言えるもので、いつも「どうしてだろう?」って思っていました。
マタギナガサ自体、とても良くできた道具です。手を抜いているとは思えないのです。もし上記2つの欠点が、本当に欠点であれば、実際に使っている猟師・マタギの人が改善を求めるはずです。そしてマタギナガサを作る西根打刃物製作所はなんらかの改善するはず……。
鞘に関する情報や特徴としては、下記のように「天然杉」「杉の殺菌作用」「まな板代わりになる」といった情報が紹介されています。
天然秋田杉の鞘
叉鬼山刀の鞘には天然秋田杉の一枚板が使われている。秋田杉は軽くて水濡れにも強いので、刃が錆びにくい。また、殺菌作用もあるので、まな板の代用にもなる。さらに、日本一の秋田県角館市の樺細工が、鞘の化粧帯に使われている。常に眞物を追い求める故西根稔氏の姿勢がうかがわれる。ただし、資源保護のために、あと数年で天然の秋田杉の伐採は中止になるそうだ。そうなると、この伝統工芸品とも言える鞘は、いつかは他の材に変わることだろう。
抜けやすい点、カタカタ音がする点は触れられていません。
発見:小枝を挟む
ヒントの1つが『アウトドア こだわり図鑑』にありました。
こんなことが書いてあります。

マタギの人たちの腰に下げられたナガサには、鞘に小枝がさしてある。これは鞘からナガサが抜け落ちないためと、カタカタと音がしないようにする工夫である。
やっぱり先ほど挙げた「1.カタカタ音」と「2.抜けやすさ」は弱点として認識されていて、小枝をさすことでマタギは解決しているというのです。
数ヶ月前にこの本を読んだとき、あまり深く気にせず「まぁ、弱点があれば、そうやって克服することになるんだろうな」くらいに思っていました。つまり弱点の回避策として、しかたなく小枝をさしている、と思っていました。
でも、今は違う考えを持っています。
小枝が答え
ここからはわたしの想像です。
ずっと「なんで小枝なんだろう?」って思っていました。
鞘に、もっと強固なロッキングシステム(革で強く固定するとか……)を作ればいいのに、と思っていたのです。実際YouTubeで、しっかりした革ベルトを自作して、マタギナガサが抜けないように加工しているのを見たことがあります(参考→こちらの動画がそれです)。
あえてその仕組みを作らないのには理由があるはずだ、と思っていたのですが、先日温泉に浸かっているときに気が付きました。
「むしろ小枝がベストアンサーだ!」と。
マタギの方々にとってマタギナガサは熊に襲われたときの最後の武器です。昔の銃は信頼性が低く、不発が起きやすかったと言います。現在でもライフルや散弾銃には装弾数の上限があり、ライフルだと最大6発、散弾銃だと最大3発連射できます(銃による)。言い換えれば、6発なり、3発なりを撃っても熊が倒れず襲ってくれば、ナガサで戦うことになるわけです。
手負いの熊は凶暴になると言います。
目の前に手負いの熊が迫っている状況で、のんびり革ベルトのスナップボタンをパチンと外す余裕はないはずです。できる限り素早くナガサを抜く必要があります。
このとき小枝がさしてあるだけならば、ある程度の力で抜けば、小枝ごと抜くことができるわけです。
だから革ベルトなどをつけて、ナガサを固定するシステムなどむしろ邪魔で、小枝で固定する方が合理的だ、と今は考えています。
7寸以上はベルトが付く
と、ここまで書いていて、どうしても引っかかるのが「7寸以上のナガサの鞘には抜け落ち防止ベルト(正式名称不明)が付いている」という事実。
少なくとも公式サイトの画像を見る限りそう見えます。下の画像がそれですが、7寸・8寸にはついていますが、6寸以下にはありません。
上記は「木の柄ナガサ」ですが、下のフクロナガサの商品紹介を見ると、7寸・8寸にはナガサ固定ベルトがあり、9寸5分・6寸・4寸5分にはない、という状態。
これが意味することはなんだろうか? と悩むばかりです。
わたしなりに根拠のない仮説を持っていて、それは「もともと、どのサイズにもナガサ固定ベルトなど付いてなかったが、何らかの理由で大型の7寸以上にだけはつけた(たとえば事故防止の対策として)。しかし9寸5分は受注生産であり、注文した人が “ナガサ固定ベルトなし” を望んだため、サンプル写真についていない」という説。
つまりナガサ固定ベルトは最近つけられたものであり、本来は「ナガサ固定ベルトなしこそがリアルな姿」ではないか? と。
これが正しい考察なのか、まったく見当違いなのか、あるいは誰もが知っている周知の事実なのか、わたしには皆目わかりませんが、個人的にはスッと腹に落ちました。
ナガサは歴史的道具
ナガサって本当に魅力的な道具だと思っています。
単純に写真を通してみても、その妖艶な、道具としての美しさを持っていますし、実際に手に持ってみるといかにも「信頼できる」感覚が伝わってきます(お店で触ったことだけはあるんです)。
そして歴史的に長く使われてきた道具でもあり、“マタギの魂” とまで言われるほどです。
その歴史に思いを馳せると、「自分なんかが持ってちゃいかん」という気持ちと「でもその歴史にあやかってみたい」という気持ちが揺れ動くステキな道具なのです。
こんな風にあれこれ考えるのがおもしろいんですよね〜。
ちなみにフクロナガサについては北欧ナイフでお気軽アウトドアさんでフクロナガサについてあれこれ研究しています。ご存じない方は、サイト内検索で見て回ってみるとおもしろいですよ。
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