『野生の呼び声』開高健とCWニコルの嘆きのナチュラリスト作家対談本

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今日オススメする本は1984年発行の『野性の呼び声』。

開高健とCWニコルさんの対談です。

グルメな2人が、最高に旨そうなジビエ料理に舌鼓を打ちながら、崇高な話から、下世話な話を行ったり来たりする本です。

『野性の呼び声』

とあるアウトドアショップの古本コーナーでこの本を見つけたとき、値札シールを見る前から「値段にかかわらず買う」と決意したほど、興味を惹いた本でした。

200円でしたけど。

開高健と言えば『オーパ!』という釣りエッセイで知られているとおり、釣り好き作家として有名です。もちろん釣り好きってだけではなく、作家としても時代を代表する人間であり、芥川賞を受賞した『裸の王様』はもちろん、ベトナム戦争を題材にした『輝ける闇』『夏の闇』など強烈な作品を発表しています。

またサントリーウイスキーのCMにも出演していたことからも有名ですね。

一方CWニコルさんは誰か? ウェールズ生まれの作家で、現在は長野県在住。自然への興味が強いようで、漁業調査局として北極圏生物ステーションに勤務したり、エチオピアの国立公園の猟区管理人などをしていました。作家としても成功し、旅エッセイなどをたくさん出版しています。

しかしわたしのブログの読者だと、CWニコルさんと言えば相田義人さんの次のエピソードの方が有名かもしれませんね。

あとは「ハンドスケルペル」ってナイフ。刃渡り56mmの小さいナイフなんだけど、C・W・ニコルさんが命名してくれたんだ。そもそもは、ニコルさんが皇居の近くを歩いてたときに警備の警官に職務質問されて、そのときナイフを持ってたことを注意された。僕に「どうして注意されるのか分からない。日本ではナイフを持って歩いたらダメなのか?」って聞いてきたから、日本には銃刀法(注1)ってのがあってねという話をしたんだ。そしたら「だったら銃刀法をクリアする小さいナイフを作ればいいじゃないか」と言われた。それももっともだと思って作ったのがそのナイフ。ニコルさんに渡したら「これはすごい! 僕が命名してあげる」ってハンドスケルペルっていう名前をつけてくれたんだ。ニコルさんは雑誌で「僕はこれで熊でも解体できる」と言ったらまた人気が出ちゃってね。
魂の仕事人 カスタムナイフメーカー相田義人』より

で、話は『野性の呼び声』に戻ります。

ナチュラリスト作家の対談

わたしはもともと個人的に開高健が大好きで、繰り返し読んだものです。こうして書いている今も「また読み直そう」と思っているほど。だからこれは絶対外せない本でした。

内容はどういうものかというと、前半は長野にあるCWニコルさんの家での2人の晩餐。後半は東京にCWニコルさんを呼んでシャモを食べながらの晩餐。

つまりところ「酒の席の雑談」です。

本当に雑談。話はフラフラと横道にそれ、お互いに褒め合い、酒と食事に舌鼓を打つ。でも雑談を舐めちゃいけない。この2人の雑談ともなれば、その掘り下げ方や返し方がおもしろい。

開高  女と食べ物が書けるようになったら小説家として一人前だと、日本人の小説家は言っているんです。(中略)女のこの部分をちょっと書いたら、ガラスの玉をペンの先で抑えるようなもので、コロコロと転がってまた別の要素が出てくる。また押さえるとまたコロコロと、紙の上はインキのとばっちりだけ。女というのはそれぐらい難しい。

うっとりするほどうまいですね。

ほかにもね、ちょっと下品な話だって、楽しいものですヨ。

ニコル  ぼくに言わせると、紳士とは、誰もいないところでもバターナイフを使う人のこと……
開高   トーストにバターを塗るのに、ナイフじゃなくてバターナイフを使うわけだ。
ニコル  そうそう。そうしたら、フィリップ殿下(英国女王の夫。CWニコルさんは彼と食事をしたことがある)は「違う、違う。紳士というのはね、お風呂の中でおしっこが出たくなっても、湯船から出てやる男のことさ」だって。
開高   おもしろいやりますな。
ニコル  本当ですよ。嘘は言わない。これ本当です。
開高   わたしはしばしば “紳士” じゃなくなるなぁ。

ってな具合です。いやね、だからどうしたって感じかもしれませんがね。なんかうまいな、と。

最後にもう1つ引用します。このあたりも作家らしい表現でおもしろい。

(開高健が世界の木がバンバン伐採されていることを問題提起したあと)
ニコル  ぼくの場合、環境庁でがんばったんですね。国立公園も作ったけど、疲れたんですよ。ああいう大きな問題は、ただ石壁に頭を打つみたい。自分の世界に入って、自分は自然を破壊しないという、小さな縄張りでがんばった方が楽しく生きていける。開高さんのそういう大きな問題には、ぼくは答えは出ないんです。
(中略)
開高   だから、われわれは小さなオピニオンを書くの。だから、小説家と言われるのよ。ここなんだ。大説家になれないの。ときどき、今日みたいにおはし捨てていいのか、とか大説家か中説家みたいになるわけ。(中略)
ニコル  捕鯨問題にもぼくは飛びかかったし、パイプライン問題にも飛びかかったし、アフリカの浸食とか、動物保護にも力を入れたけど、結局、お月様に吠えている犬みたいになっちゃう。
開高   そのとおり、おっしゃるとおりです。あなたは本当の小説家です

洒落た男たちの嘆きの会話

全体的に嘆きなんですよ。

作家同士、ナチュラリスト同士、おっさん同士の嘆き。そこに作家特有の洒落た表現が絡み合って、そういう嘆きを小さな笹舟に載せて小川に流すような本なのです。

だから読んで何かを学ぼうとか、そんなこと考えなくていい。

黙って一緒に嘆けばいい。

そういう本なんですよ。これは。

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コメント

  1. 槍のナガサKI より:

    当方も久々に読み返してみようかと思います、開高健。「風に訊け」なんか何年か毎に読む度、新しい解釈や発見があって、自分が年経ていく面白さを感じる事が出来たり。
    健氏の「文章」というよりも「声」と感じられるような語り口がまた、いいんですよねー♪

    1. yamakuji より:

      そうですね。たしかに「語り」といった方が近い作品が多いですよね。それも濃厚で、いい塩梅にネットリとした語り。大好きです。
      槍のナガサKIさんは、このブログの初期の頃からコメントいただいていますね。ようやく銃を受け取るところまで来ました。いつもコメントありがとうございます。

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